2024年04月25日
障がい者雇用で必要な合理的配慮とは何かわかりやすく解説!具体的な事例も紹介します
目次
企業の担当者で「合理的配慮」という言葉を聞いたことがあっても、どういった内容で具体的に何をしたらいいのかわからないという方も多いはず。
合理的配慮とは、障がいによって困難に感じることに対して、本人の求めに応じて職場が過剰な負担とならない範囲で困難を解消するために行う配慮のことをいいます。
この記事では、合理的配慮の基本的な概要や義務化について、また障がいの種別ごとに合理的配慮の実践例をわかりやすく紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
合理的配慮とは
合理的配慮とは、国際的な「障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)」に定められている、障がいのある方への配慮のことです。
障害者権利条約では合理的配慮とは、「全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整」「かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。
※引用元:障害者の権利に関する条約
つまり、障がいのある方の権利や自由が阻害されないように、事業主が過度な負担とならない範囲で必要な処置を取ることを意味しています。例えば、車いすを使用している社員が通れるように段差にスロープを設置することや、職場で耳の聞こえない方がコミュニケーションを取れるように筆談器を用意するといったことなどです。
ただし、状況にもよりますが、エレベーターのない建物にエレベーターを設置することや、窓口につき一人ずつ手話ができる方を配置するなどは過度な負担とみなされることがあります。あくまで、実施する側が対応できる範囲での配慮のことを合理的配慮と呼んでいます。
合理的配慮は日本の法律においては障害者差別解消法と障害者雇用促進法に規定されています。障害者差別解消法では主に生活の分野で、障害者雇用促進法では雇用の分野でそれぞれ内容が決められています。
合理的配慮は義務化されている
合理的配慮は、障がいのある方から働きかけがあった際に行政機関の他、企業やお店、団体などの事業者が提供することになっています。
先述したように日本において合理的配慮自体は二つの法律に定められていますが、ここでは障害者雇用促進法をもとに、職場での合理的配慮について紹介していきます。
職場での合理的配慮は、障がいのある方が働くにあたって支障となっている物事に対して、事業主が解消のための何らかの措置をしなければならないとされています。ただ、先ほど紹介したように職場においても過度の負担とならない範囲で行うことも明記されています。
以前は努力義務でしたが、平成25年に施行された改正障害者雇用促進法に、合理的配慮の提供義務が規定されました。
合理的配慮が十分でないと罰則がある?
障がいのある方への合理的配慮が義務化されたことを受け、罰則があるのではと気になる方もいると思います。
現状では合理的配慮を提供できなかったことでの罰則に関しての定めは見られません。これは、合理的配慮を提供できなかった場合に罰を与えるよりも、必要な行政指導を行って合理的配慮を推し進める方が有効という考え方からです。
ただし、合理的配慮の提供が不十分とみなされると行政から報告が求められることもあり、この時に報告をしないことや、虚偽の報告をしたことによる罰則が障害者雇用促進法に定められています。
また、今後罰則が追加される可能性もありますので、今のうちから合理的配慮についての情報を得ておくことが大事といえるでしょう。
【障がい別】合理的配慮の具体的な事例
合理的配慮は障がいのある方が仕事をするうえでの困りごとを解消し、本来持っている能力を発揮しやすくなる効果もあるなど、義務としてだけではなく企業にも利点があります。
ただ、実際に企業の障がい者雇用の担当者になり、今後合理的配慮を提供する予定があるという方もいると思います。しかし、職場においてどのような合理的配慮を提供するといいのか思い浮かばないと悩むこともあるでしょう。
この後は障がいの種別ごとによくある合理的配慮の例を挙げていきます。自身の職場で実施する際の参考としてみてください。
精神障害のある方への合理的配慮の例
精神障害とは、うつ病や統合失調症、双極性障害やパニック障害などの精神疾患のために日常生活や社会参加に困難をきたしている状態のことをいいます。
同じ疾患でも本人が困難に感じていることは異なります。本人がどんなことで困っているかをヒアリングしたうえで、事例も参考にしながら実際の合理的配慮を考えていくといいでしょう。
【精神障害のある方向けの合理的配慮の具体的な事例】
- 通勤ラッシュが苦手な方へ、時差出勤を取り入れる
- 通院日に休みがとりやすいようにする
- 静かに過ごせる休憩スペースを設ける
- 最初は時短勤務から初めて段階的に伸ばしていく
- 定期的に困っていることがないか面談の機会を設ける
- 社内カウンセラーを配置する
- 電話対応など本人に難しい業務を他の業務に変える
- 本人が理解しやすいように指示の出し方を工夫する
などがあります。ここに書かれているすべての配慮を一人の方へ行うのではなく、障がいのある方の困りごとと職場で対応できることを話し合いながら必要なものを実施していきます。
身体障害のある方への合理的配慮の例
次に身体障害のある方への合理的配慮の例を見ていきましょう。
身体障害には、言語・聴覚障害、視覚障害、上肢・下肢障害などがあります。それぞれ困ることは異なるため、身体障害のある方の場合も、一人ひとりに合わせて合理的配慮を考えていくことが大事です。
【身体障害のある方向けの合理的配慮の具体的な事例】
- 移動しやすいように席を入口のそばにする
- オフィス内で移動の妨げとなっている物をどかす
- スロープや手すりの設置などバリアフリー化を進める
- ラッシュを避けるために時差出勤を取り入れる
- 筆談やメールなど口頭以外の連絡手段を取り入れる
- 音声読み上げソフトなど必要なツールを導入する
- 障がいの特性に合わせて災害時のフローを作成す
上記が例としてあります。こちらも、障がいのある方の困りごとや職場の状況に合わせて合理的配慮を実施していきます。
発達障害のある方への合理的配慮の例
今度は発達障害のある方への合理的配慮の事例について紹介します。
発達障害はASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、SLD(限局性学習症)などがあり、コミュニケーションやスケジュール管理、マルチタスクなどに苦手を感じる方がいます。また、聴覚過敏などの感覚過敏がある方もいます。
発達障害のある方も他の障がいと同じく、困ることはそれぞれ異なります。事前に話を聞いたうえで、合理的配慮の事例も参考に考えていくといいでしょう。
【発達障害のある方向けの合理的配慮の具体的な事例】
- 指示を出す人を一人に固定する
- スケジュールや優先順位を可視化して伝える
- いつ、誰にといったことを具体的に伝える
- 定期的に声掛けをして進捗を確認する
- 予定の変更がある際はあらかじめ伝えておく
- 絵や図なども用いて視覚的にわかりやすいマニュアルを作成する
- 通勤ラッシュを避けるために時差出勤を取り入れる
- 静かに休憩できるスペースを設ける
- イヤーマフなど感覚過敏への対策グッズの使用を許可する
発達障害のある方へも、話し合いをしながら提供する合理的配慮を決めていきます。
知的障害のある方への合理的配慮の例最後に知的障害のある方への合理的配慮の例を紹介します。
知的障害は程度により軽度、中度、重度、最重度と分かれており、指示の理解や臨機応変な対応が苦手といった傾向があります。
知的障害のある方も困ることは一人ひとり異なるため、ヒアリングしたうえで合理的配慮を検討していくことが大事です。
【知的障害のある方向けの合理的配慮の具体的な事例】
- 指示を行う人を固定する
- マニュアルにフリガナを振るなど本人が理解しやすいようにする
- 定期的な声掛けや、連絡ノートをつけることで困りごとがないか確認する
- 最初は一つずつレクチャーし、段階的に業務を増やしていく
- チェックシートを作成し、業務の間違いが内容にする
- 対応する道具を色で分けるなど見てわかるようにする
- シフト制の職場でも勤務日を固定にしている
- 家族とも連携して体調などの情報を交換する
知的障害のある方も、本人やご家族などと話し合いながら力を発揮しやすくなるよう合理的配慮を実施していくといいでしょう。
合理的配慮をスムーズに取り入れるポイント
ここまで、障がい種別ごとの合理的配慮例を紹介してきました。今度は実際に合理的配慮を実施するときに意識したいポイントを紹介します。
【合理的配慮をスムーズに取り入れるポイント】
- 合理的配慮は当事者との話し合いが必要不可欠
- 社員への周知をしっかり行う
障がいごとに正しい合理的配慮があるわけではありません。本人と話し合ったうえで検討していくことが実施する際の大切なポイントです。それとともに、一緒に働く社員の協力を得ることも大事な点です。
合理的配慮は当事者との話し合いが必要不可欠
障がいのある方と一口に言っても、職場で具体的にどういったことに困るかは異なります。そのため、本人と職場で話し合いをしてから合理的配慮を検討していくことが重要です。
まず、合理的配慮は採用時と実際に働いた後に確認することが推奨されています。入社前は大丈夫と思っても、働いてみると難しかったということも考えられるからです。
そして、実際に合理的配慮を検討するときの話し合いでポイントとなるのは、「業務において何が困難か」、「どうすれば解決するのか」という点を明確にすることです。
本人もうまく困っていることを伝えられないこともあるので、上司や同僚の意見も聞きながら進めていくといいでしょう。また、本人が就労支援サービスを利用している場合は、支援者の意見を聞いてみる方法もあります。
そうして、困りごとを把握した後は職場で何ができるかを検討し、現実的に可能な範囲で合理的配慮を実施するといいでしょう。
どのような配慮をしたらいいのかわからない場合は、障がい者雇用について相談できる窓口へ問い合わせてみることも大事です。
職場への周知をしっかり行う
合理的配慮を実施することで、職場内に何かしらの影響がでることがあります。オフィスの席や備品などのレイアウト変更や、新たなフローの作成など他の社員にも関係することは多くあるでしょう。
そのため、合理的配慮を実施するときは前もって社員にどういった目的で、何を行うのか周知や研修を通して協力を得ることが大事です。
そのときは単に指示するだけではなく、合理的配慮を通じて業務の効率化やフローの改善などメリットがあることも伝えると理解を得やすくなります。
どのような周知や研修をしたらいいのかわからないという場合も、ハローワークや人材紹介サービスなどで相談や研修の依頼ができますので、活用していくといいでしょう。
まとめ
合理的配慮は障がいのある方が権利を行使できるように、妨げとなっていることに対して企業などができる範囲で配慮をすることです。
合理的配慮は日常生活や仕事などさまざまな場面で実施されていますが、仕事においては「スロープの設置などオフィスのバリアフリーを進める」「時短勤務や時差出勤を取り入れる」「特性に応じて理解しやすい形で指示を行う」など障がいのある方が力を発揮しやすくする配慮例があります。
今回紹介したように障がいの種別ごとに配慮例が見つかると思いますが、一人ひとり困ることも異なります。単に事例を当てはめるだけでなく、本人と職場でよく話し合って実現していくことが大事です。
それとともに、ハローワークなどの支援機関、また、障がいのある方向けの人材紹介サービスでも相談や研修のサポートなどを実施しています。「何から手を付けていいのか」「どう伝えたらいいのか」と悩む場合は相談してみるのも方法の一つです。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |