2024年05月15日
知的障害は大人になってから判明するケースもある|利用できる支援制度やサービスを紹介!
目次
大人になってから知的障害と診断され、仕事ができるのか悩んだ経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
就職活動の際に、果たしてご自身に合った仕事が見つかるのか、続けられるのか心配になるかもしれません。
今回は、大人になってから知的障害が判明するケースと、利用できる就労サービスをご紹介します。仕事中に現れる可能性がある症状についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
知的障害とは
【知的障害とは】
「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」 ※引用元:厚生労働省「e-ヘルスネット」 |
知的障害とは、一般的に発達期(18歳)までに知的な発達に遅れがあり、日常生活をする上で何かしらの援助・介護が必要な状態を指します。
知的な発達の遅れとは、同じ年齢の平均よりも知的機能が低いことです。例えば、読み書きや食事の準備、金銭管理、集団生活でのルールの遵守などに関して明らかな制限があることが挙げられます。
ただし、発達期以降になってから交通事故などによって知的機能が低下した場合は、知的障害には該当しません。
知的障害の4つの程度
知的障害のある方へ交付される障害者手帳のことを「療育手帳」と言います。
療育手帳は、知的障害の程度によって等級が変わり、具体的な等級は「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4つです。
療育手帳の等級は、「知能指数(IQ)」や「生活能力・介護がどれくらい必要なのか」といった基準によって総合的に判定されます。
各等級の主な特徴は以下の表の通りです。
【知的障害の4つの程度と療育手帳の等級】
知的障害の程度 | 特徴 | 障害者手帳(療育手帳)の等級 |
軽度 | IQがおおむね51~70程度。複雑な事態・ことがら・計算などの理解は苦手さを感じる場面がある。基本的な社会のルールを守って日常生活ができ、合理的配慮があれば十分に働ける。 | その他(B) |
中等度 | IQがおおむね36~50程度。簡単な読み書き計算はおこなえる。助言や指導を受けつつ日常生活を送れる。 | その他(B) |
重度 | IQがおおむね21~35。簡単なコミュニケーションはとれるが、読み書き計算が苦手。日常生活を送るためには個別的な援助が必要。 | 重度(A) |
最重度 | IQがおおむね20以下。言葉でのコミュニケーションも難しい傾向にあり、日常生活を送るうえで常に援助が必要。 | 重度(A) |
大人になってから知的障害に判明することも!
成人してから知的障害が判明することもあります。
軽度の知的障害は気づきにくいことがあり、環境の変化によってうつ病などを発症し、結果として知的障害がわかるケースがあるからです。
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
環境の変化による二次障害がきっかけになる
周囲が気づかないような軽度の知的障害がある状態で入社してから、人間関係や社会生活に馴染めず、仕事に関する学習が難しくてついていけないことがストレスとなって二次障害が引き起こされるケースも少なくありません。
また仕事に上手く適応できず、うつ病などを発症したことで、初めて知的障害とわかる場合もあるのです。
知的障害によって仕事中に現れる症状
知的障害のある方が仕事をする際に現れる可能性がある症状は、以下の通りです。
【知的障害によって仕事中に現れる症状】
- 職場のルールやマナーがわからないケースがある
- 連絡や報告業務が困難なことがある
- 仕事を覚えるのに時間がかかることがある
- スケジュール通りの進めるのが難しいことがある
職場のルールやマナーがわからないケースがある
知的障害があると、職場のルールやマナーがわからないケースが見られます。職場でのルールとマナーを理解するために、以下のような対策をとってみると良いでしょう。
- 定着支援などのサービスを利用する
- 何度も繰り返してゆっくり身につけていく
- わかりやすい言葉や図で明確に示してもらう
すぐに全部覚えようと無理せず、適宜確認しながらご自身のペースで覚えていくことが大切です。
連絡や報告業務が困難なことがある
知的障害があると、仕事上の連絡や報告業務が困難になるケースがあります。どのようなことを報告したらよいかわからない場合は、報告する内容を確認してみましょう。
また、定期的に進捗状況を確認してもらえるように、周囲の協力を得ることも大切です。
仕事を覚えるのに時間がかかることがある
知的障害があると、仕事を覚えるまでに時間がかかる場合があるため、以下のような工夫が必要です。
- メモだけでなく写真やイラストなどを駆使する
- 同時に複数の指示は難しいことがあるため一つずつ指示をもらう
- 簡単な言葉で指示をお願いする
一度で理解することが難しいことがあるため、何度も繰り返して覚えていくことが重要です。
スケジュール通りに進めるのが難しいことがある
知的障害があると、仕事を決まったスケジュール通りに進めるのが難しい場合があります。
そのため、紙ベースの予定表や計画表を作る、あるいは上司や周囲の方に定期的に進捗具合を確認してもらうなど、合理的な配慮を受ける必要があるでしょう。
予定表を作る際には、重要な予定を赤色にするなど工夫をするとわかりやすいです。
知的障害がある方が利用できる就労サービス
知的障害がある方が利用できる主な就労サービスは、以下の4つです。
【知的障害の方が仕事を探す方法】
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- ハローワーク
- 転職エージェント
ご自身の症状や相談内容に合ったサービスを受けられる機関を選ぶことが大切です。
地域障害者職業センター
地域障害者支援センターは、障害者雇用促進法に基づき各都道府県に設置されている支援機関です。
ハローワークといった他の支援機関や企業などと連携して、「職業リハビリテーション」を提供しています。
地域障害者支援センターは、各都道府県に設置されています。受けられる支援は以下の通りです。
【地域障害者職業センターで受けられる支援内容】
- 職業準備支援
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業
- 事業主に対する相談・援助
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障がいのある方の仕事をサポートする目的で全国に設置されています。
仕事と生活の一体的な支援を目的としており、雇用、保健、福祉、教育等の関係機関と連携しながら支援している機関です。
障害者就業・生活支援センターで受けられるサービスは、以下の通りです。
【障害者就業・生活支援センターで受けられる支援内容】
- 就業に関する相談
- 特性を踏まえた雇用管理に関する助言
- 関係機関との連絡調整
- 日常生活に関する助言
ハローワーク
ハローワークは、厚生労働省設置法に基づき各都道府県に設置されている行政機関です。障がいのある方に向けた窓口が設けられています。
ハローワークで受けられる支援は、以下の通りです。
【ハローワークで受けられる支援内容】
- 職業相談や職業紹介
- 応募書類の作成サポートや面接準備
- 障がい者雇用枠への応募
- 職業訓練の紹介
転職エージェント
転職エージェントは、求人検索サイトと異なり、担当者が面談や手続きを行うサービスを提供する企業です。
障がいのある方向けのサービスを提供している企業もあり、キャリアアドバイザーが相談者の障がいの特性や希望する条件などをヒアリングしながら、転職サポートを行います。
転職エージェントサービスで受けられる支援内容は、以下の通りです。
【転職エージェントで受けられる支援内容】
- キャリアアドバイザーによるカウンセリング
- 障がいや特性に応じたアドバイス
- 転職活動全般のサポート
- 書類添削・模擬面接などの採用試験対策
- 入社後のアフターフォロー
転職エージェントでは、キャリアに関する相談だけにとどまらず、症状に応じたアドバイスも受けられます。
知的障害がある方が知っておきたいその他の支援
知的障害がある方が知っておきたい支援の種類は、以下の通りです。
【知的障害のある方が知っておきたいその他の支援】
- 療育手帳制度
- 知的障害者更生相談所
- 成年後見制度
- 障害者虐待防止センター
- 障害年金
適切な支援を受けるために、機関ごとに相談できる内容やメリットを覚えておきましょう。
療育手帳制度
療育手帳とは、児童相談所か知的障害者更生相談所で、知的障害と判定された方に交付される手帳です。
手帳を取得することで、公共料金の割引や税金の軽減が受けられるメリットがあります。
- 医療費の助成
- JRやバスなど公共機関の割引
- NHK受信料の免除
- 所得税と住民税の控除
- 自動車税の控除
障がい者雇用枠での応募が可能となり、転職エージェントなどを活用しながら転職活動ができます。
知的障害者更生相談所
知的障害者更生相談所は、知的障害者福祉法に基づき、知的障害者本人や家族に対して相談や指導を行う専門機関です。
医師やケースワーカー、心理判定などの専門職が在籍しており、課題解決に向けて一緒に考えていきます。
知的障害者校正相談所では、以下のような支援が受けられます。
- 18歳以上の知的障害のある方の相談
- 療育手帳に関する判定
- 巡回相談
職員から専門的な立場で助言や指導をもらえることが、大きなメリットです。
成年後見制度
成年後見制度とは、知的障害や精神障害、認知症など、一人で物事を決めるのに不安や心配のある人が、いろいろな契約や手続をする際にお手伝いする制度です。
成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度があります。
法定後見制度には、障害や認知症の程度に応じて、「補助」「保佐」「後見」の3つの種類(類型)が用意されています。
法定後見制度においては、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(補助人・保佐人・成年後見人)が、ご本人の利益を考えながら、ご本人を代理して契約などの法律行為をしたり、ご本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、ご本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、ご本人を保護・支援します。
※引用元:成年後見はやわかり│法定後見制度とは(手続の流れ、費用)
制度についてわからないことがある場合は、以下の機関へ問い合わせてみてください。
- 地域包括支援センター
- 社会福祉協議会
- 成年後見センター
- 法テラス
- 権利擁護センター
障害者虐待防止センター
障害者虐待防止センターは、虐待の事実確認や安全確認を行って関係機関とともに対応方法を考えて支援を行う機関です。
障害者虐待防止センターには、以下のような役割があります。
- 障害者虐待に関する通報・届出の受理
- 障害者及び養護者に対する相談、指導及び助言
- 関係機関との連携及び障害者虐待の防止等に関する広報及び啓発
※引用元:文京区 「障害者虐待を起こさないために~障害者虐待防止センター~」
虐待を受けたと思われる障がいのある方を発見した場合は、発見者に通報義務があります。その際には守秘義務が守られ、匿名通報も可能です。
障害年金
障害年金は、病気やケガによって生活や仕事が制限されるようになった場合に、受け取れる年金です。
障害年金を受け取るメリットは、以下の通りです。
- 国民年金保険料が免除になる
- 就労しながら受け取れる
- 非課税所得で、税金はかからない
- 使用用途に制限がない
ただし、障害年金は申請すれば必ず受給できるわけではなく、審査によって受給できるか判断されます。
初診日や保険料納付期間、障がいの状態を受給要件としている点を覚えておきましょう。
まとめ
今回は、大人になってから知的障害が判明するケースと、相談できる機関についてご紹介しました。
さまざまな疾患が併発して体調を崩し、知的障害だと判明するケースも少なくありません。また仕事の際には、自分のペースでゆっくりと繰返しながら仕事を覚えていくことが大切です。
ご自身に合う職業を探したいとお考えでしたら、活用できる支援機関や転職エージェントの利用を検討してみることをおすすめします。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |