2024年05月17日
療育手帳を取得するメリットとは|税金や公共交通機関が割引になるって本当?
目次
知的障害のある方の中で、療育手帳を申請するか迷っている方もいるのではないでしょうか?
療育手帳は障害者手帳の中の一つで、取得することでさまざまな割引を受けることができるほか、障がい者雇用枠で働くことができるなど多くのメリットがあります。
一方で「申請手続きの方法が分からない」、「デメリットがあるかも気になる」と申請を迷っている方もいるかもしれません。
今回の記事では療育手帳はどんな制度か、等級とは何か、取得するメリットなどを紹介します。申請する際の参考にしてみてください。
療育手帳とは
療育手帳とは障害者手帳の中の一つで、知的障害のある方に発行される障がいの程度などを証明するものです。
障害者手帳は3つ種類があり、それぞれ対象となる障がいごとに「身体障害者手帳」と「精神障害者保健福祉手帳」、そして、「療育手帳」に分かれています。
障害者手帳を所持していると、税金の控除やさまざまな割引を受けることができるほか、障がい者雇用枠で働くことも可能になるなど多くのメリットがあります。
【障害者手帳の種類】
身体障害者手帳 | 身体障害のある方を対象とした障害者手帳で、1級から7級まで等級があります。視覚障害、聴覚障害、上肢障害、下肢障害などの障がいのある方に交付されます。 |
精神障害者保健福祉手帳 | 精神障害のある方や発達障害のある方を対象とした障害者手帳で、1級から3級まで等級があります。うつ病、双極性障害、統合失調症などの精神障害のある方や、ADHD、ASDなどの発達障害のある方に交付されます。 |
療育手帳 | 知的障害のある方を対象とした障害者手帳で、等級はA(重度)とB(その他)に分かれていますが、自治体によってはさらに等級が分かれている場合があります。知的障害を伴う発達障害のある方にも交付されることがあります。 |
身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳は法律によって定められていますが、療育手帳だけは法律ではなく厚生労働省からの通知をもとに各自治体で独自に運用しています。
そのため、自治体によって療育手帳の等級の分け方や名称が異なっていることもあります。例えば東京都や横浜市では「愛の手帳」、名古屋市では「愛護手帳」という名称で運用されています。
療育手帳の対象となる障がい
療育手帳は知的障害のある方を対象とした障害者手帳です。
知的障害は、厚生労働省では発達期(おおむね18歳まで)に知的機能の障がいが現れている方と定義されています。
そのため、基本的に療育手帳も18歳未満の方が対象となりますが、軽度知的障害のある方などで学生時代は気づかず、大人になってから知的障害のあることが判明した場合などは18歳以上でも申請ができます。
18歳以上で初めて申請する場合、自治体によって異なりますが、例えば香川県では18歳以前から知的障害のあったことを証明する書類の提出が求められる、といったことがあるようです。
書類は18歳以前に行った知能指数検査の結果や、学校の通知表、医師の診断書などが該当します。
大人になってから療育手帳を申請する方は、そういった書類がないか確認しておくといいでしょう。詳しい提出物はお住いの自治体の障害福祉窓口などでご確認ください。
また、発達障害のある方は、精神障害者保健福祉手帳の対象になりますが、知的障害を併発している場合は、療育手帳の対象となります。申請で迷った際は自治体の窓口などに相談しましょう。
※参照元:香川県 「18歳以上で初めて療育手帳を申請される場合について」
療育手帳の等級
療育手帳には、知的障害の程度によって等級が分けられています。
厚生労働省の通知では、A(重度)とB(その他)のみですが、自治体によってはさらに細かく分かれている場合がありますので、いくつか例を紹介します。
- 東京都の場合:1度(最重度)、2度(重度)、3度(中度)、4度(軽度)
- 兵庫県の場合:重度A、中度B(1)、中度B(2)
- 大阪府の場合:A(重度)、B1(中度)、B2(軽度)
以上のように、自治体により等級の分け方は異なっています。
また、都道府県単位ではなく、市区町村単位で分けている場合もありますので、確実に知りたい方はお住いの自治体のホームページや窓口でご確認ください。
また、障がい判定基準ですが、基本的には厚生労働省の定めた知能指数(IQ)と日常生活の困難さの基準をもとにしています。
知能指数は、次のように分かれており、さらに日常生活能力と呼ばれる身の回りのことやコミュニケーション能力などが考慮され重度などの判定がされます。
I ・・・ おおむね20以下
II ・・・ おおむね21~35
III ・・・ おおむね36~50
IV ・・・ おおむね51~70
療育手帳を取得するメリット
療育手帳を取得すると、多くのメリットがあると紹介しました。
ここでは具体的に受けることができる割引やサービスなどを紹介します。
税金が安くなる
療育手帳を取得すると、所得税などの税金が安くなることがあります。これを税金の控除と呼んでいます。
控除額は障がいの程度によって違うことがあり、重度判定など特別障がい者に該当する方は多くの控除を受けることができます。
【療育手帳を取得した方が受けることができる控除】
- 所得税:27万円(特別障がい者の方は40万円)
- 住民税:26万円(特別障がい者の方は30万円)
- 相続税:85歳に達するまでの間1年につき10万円(特別障がい者の方は20万円)
さまざまな障がい者向け割引が受けられる
税金の控除以外にも、公共交通機関やホテルなどの料金の割引を受けられることもありますので順番に見ていきましょう。
公共交通機関の割引
療育手帳を所持することで、バスや電車などの公共交通機関の割引を受けることもできます。ここから具体的な割引について紹介します。
バス | 基本的にバスの運賃が5割引きになるほか、定期券購入も3割引きとなるなどの割引があります。 運営元によっては付き添いの方も割引になる場合もあります。 |
タクシー | 基本的にタクシーの運賃が1割引きとなります。 その他、タクシー会社によっては独自の割引などをしている場合があります。 |
電車 | 基本的に電車の運賃が5割引きになります。 また、区分が第1種に該当する方は、付き添いの方も割引を受けることができます。 区分は第1種第2種とあり、療育手帳内に記載されています。 |
ホテルや施設の割引
療育手帳を所持しているとホテルや映画館など、娯楽施設なども割引となることがあります。具体的な割引内容を紹介していきます。
ホテル | 自治体の運営する保養所などのホテルや旅館などで宿泊料が割引になることがあります。 また、民間でもホテル独自に障がい者割引を実施していることがあります。金額は数千円引きから5割引きなどホテルによって異なります。 |
映画館 | 基本的に鑑賞料が1,000円になる映画館が多いようです。付き添いの方も割引となるかは映画館ごとに異なります。 |
美術館 | 国や自治体が運営している美術館や博物館などは本人と付き添いの方1名が無料となることが多いようです。 民間の美術館の場合は数百円の割引から半額となることが多いようです。 |
カラオケ | カラオケの割引は会社によって異なり、数百円の割引から半額になることもあるようです。 |
公共料金の割引
療育手帳を所持していることで、公共料金なども割引となる場合があります。こちらも具体的に見ていきましょう。
郵便料金 | 以下のような、特定の郵便物の料金が割引になります。
|
携帯電話料金 | 携帯電話各社により異なりますが、基本料金が数百円から数千円安くなる他、手続きなどの費用も割引となることが多いようです。 |
今回紹介した割引以外にも、自治体や企業ごとに割引やサービスを行っている場合があります。
自治体のホームページや障害福祉窓口などに情報が掲載されていることが多いので、気になる方は見てみるといいでしょう。
療育手帳を取得するデメリットはあるか
割引など療育手帳を取得するメリットを紹介してきましたが、デメリットもあるのかと気になる方もいると思います。
基本的に療育手帳を所持していてもデメリットとなることはないでしょう。
療育手帳を持っていることで、何か制限が加わることや、自分から言わないのに周りに知られるということはありません。
ただ、あえて挙げると、申請のための手続きが必要なことや、紛失や転居、更新のたびに再度手続きが必要なことをデメリットと感じる方もいるかもしれません。
就労に関する支援やサービスを利用できる
割引といったサービス以外にも療育手帳を所持していることで、以下のような就労に関する支援を受けることも可能となります。
【就職に関する支援・サービス】
- 障がい者雇用枠での採用
- 障がい者向けの就労支援
障がい者雇用枠での応募
療育手帳など障害者手帳を所持している方は、障がい者雇用枠での応募ができるようになります。
障がい者雇用とは、障がい者雇用促進法に基づき企業などに障がいのある方の雇用を義務付けた制度です。
2023年時点で企業では従業員数の2.5%の割合で障がいのある方を雇うことになっています。
障がい者雇用では、あらかじめ職場に障がいのあることを伝えた上で働くことができるため、合理的配慮といって障がいの特性に応じて実施される配慮を受けやすくなるといったメリットがあります。
知的障害のある方への合理的配慮としては、以下の例があります。
- フリガナを振るなど読みやすいマニュアルを整備する
- 指示を出す人を一人に固定する
- 最初は業務量を少なくし、身についてから徐々に増やしていく
また、障がい者雇用の担当者がいる会社もあり、困った時に相談しやすいなど、比較的働きやすい環境が整っているといえます。
障がい者向けの就労サービス
療育手帳など障害者手帳を所持しているとさまざまな就労サービスを利用できます。
また、基本的に相談は手帳がなくてもできることが多いため、まだ申請していない方も気になるサービスがあれば問い合わせてみるといいでしょう。
【障がいのある方が活用できる就労サービス】
就労移行支援事業所 | 障がいのある方を対象に、2年間の利用期間の中で業務スキル、コミュニケーションスキルなどの就職のためのスキル獲得の訓練や、書類添削、面接同行といった就職活動のサポートを提供している事業所です。 |
地域障害者職業センター | 障がいのある方へ、働くことへの専門的な支援を提供している機関です。 利用者に職業リハビリテーション計画を作成し、その計画に沿ってさまざまなプログラムを行っている他、働いた後もジョブコーチと呼ばれる専門のスタッフを派遣して働き続けるための支援を行っています。 |
障害者就業・生活支援センター | 障がいのある方の働くことだけでなく、日常生活の支援も提供している機関です。 就職に向けての相談対応や訓練の提供、日常生活での体調や金銭管理といった困りごとへのアドバイスなどを行っています。 |
ハローワーク | ハローワークでは障がいのある方専門の窓口があり、相談受付から求人の紹介、書類の添削など就職活動をトータルでサポートしています。 また、職業訓練や各種セミナーなどの案内や手続きも行っています。 |
転職エージェント | 転職エージェントの中には障がいのある方専門のサービスを提供している会社もあり、障がい者雇用に精通したスタッフにより面談を通して障がいの特性や得意なこと苦手なことを把握したうえで、多くの企業の中からマッチする求人の紹介をしています。 その他にも、書類の書き方、面接の練習といったサポートや入社手続きの代行といったサービスも提供しています。 |
まとめ
療育手帳は知的障害のある方が申請できる障害者手帳のことで、自治体ごとに独自の運用をしています。
療育手帳をはじめとする障害者手帳を所持することで、日常生活では税金の控除や交通機関の割引など多くのサービスを受けることができます。
また、就労面でも障がいのある方向けの就労サービスの利用や、障がい者雇用枠での就職ができるといったメリットがあります。
就労サービスは基本的に現在手帳を持っていなくても相談が可能なため、働くことで悩んでいる方は一度問い合わせてみるといいでしょう。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |