2024年05月17日
大人の学習障害とは|仕事中に現れる症状や長く働き続けるためのポイントを紹介します!
目次
「読み」「書き」「計算」など特定の分野だけに苦手を感じる障がいに、学習障害があります。
仕事で「漢字が読みづらい」「メールを書くのに時間がかかる」「暗算ができなくて仕事に詰まる」などの困りごとがある方もいるのではないでしょうか?
学習障害のある方が長く働くためには、自分の得意不得意を把握したうえで、マッチする職場を選ぶことや対策を立てることが重要です。
この記事では、大人の学習障害について、概要と職場でよくある困りごとの例、長く働くためのポイントなどを紹介します。
大人の学習障害とは
学習障害とは発達障害の中の一つで、知的に遅れはないが「読み」「書き」「計算」といった特定の領域に苦手を感じる障がいのことです。
学習障害はLDと略されることもあり、また最近では限局性学習症(SLD)と呼ばれることもあります。
学習障害以外の発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)などがあります。
【発達障害の種類】
- 学習障害/限局性学習症(LD/SLD)
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如多動症(ADHD)
発達障害は生まれつきの脳機能の偏りによって起こると言われていますが、今のところ原因ははっきりとしていません。
生まれつきのため、大人になってから生じるわけではありませんが、子供のころには気づかれず大人になってから判明するケースがあり、これを一般的に「大人の発達障害」や「大人の学習障害」と呼ぶことがあります。
大人の学習障害のタイプ
学習障害には大きく分けて3つのタイプがあります。
【大人の学習障害のタイプ】
読字障害 (ディスレクシア) |
文字を読むことに困難を感じる学習障害のタイプです。似た文字(「ぬ」と「ね」)を読み間違えたり、文字を飛ばして読んでしまう傾向などがあります。 |
書字表出障害 (ディスグラフィア) |
文字を書くことに困難を感じる学習障害のタイプです。枠の中に字を収めるのが苦手な傾向や、漢字の書き間違えが多いなどの傾向があります。 |
算数障害 (ディスカリキュリア) |
計算や推論することへの困難を感じる学習障害のタイプです。九九がなかなか覚えられない、四捨五入などの概念の理解が難しいなどの傾向があります。 |
タイプ自体は大人でも子どもでも同じですが、学校や仕事などその方のいる環境によって表れる困りごとは変わってきます。
大人の学習障害の症状
学習障害は今紹介したように主に3つのタイプがあります。しかし、人によって苦手と感じるポイントもその度合いも変わってきます。
学生時代の勉強では苦手以外の教科でカバーできていた場合などは学習障害の傾向に気づかれにくいことも考えられます。
そういった方が、大人になって仕事や役所の手続きなどで困難を感じて学習障害に気づくことがあります。
また、以前は学習障害の認知度が低かったこともあって、困難はあったけど診断は受ける機会がなく、大人になってから学習障害だと判明するというケースもあります。
ここではそういった、大人の学習障害のある方に見られることが多い症状を紹介します。
【大人の学習障害に見られる症状例】
大人の学習障害のある方には以下のような症状が見られることがあります。
- 買い物をしていて購入金額やお釣りが分からなくなることがある
- 携帯電話などの契約を結ぶときに契約文の意味がつかめないことがある
- 役所の手続きで書類の枠に文字をうまく書けないなど作成に手間取ることがある
こういった困りごとは、加齢による計算能力や視力の低下などは別になります。
また、学習障害の困りごとが積み重なることで心身のストレスとなり、うつ病など他の病気の症状が出る場合があります。これを二次障害と呼んでいます。
二次障害を起こさないためにも、自身の困りごとを把握して対策を取っていくことが大事です。
大人の学習障害で仕事中に現れる症状
ここでは、大人の学習障害のある方が、仕事をする中で現れることのある症状の例を紹介します。
【学習障害で仕事中に現れる症状例】
- 資料やマニュアルの文章が読みづらいケースがある
- 口頭の説明をメモすることが難しい場合がある
- 時計が読めずスケジュール管理が難しいことがある
- 計算に時間がかかることがある
- 報告書や議事録などの文章を書くことが難しいことがある
- メールの読み書きに長い時間がかかる場合がある
以上はよくある例なので、実際には一人ひとりの特性や業務内容などによって困ることが大きく異なります。
こういった例と自身のこれまでの経験と照らし合わせることで、自身の得意不得意が見えてくることもあります。
得意不得意を把握することで、ストレスとなる業務を避けることや、対策を立てることにもつながりますので、参考にしてみてください。
学習障害のある方が長く働ける仕事・職場選びのポイント
ここでは、学習障害のある方が一つの職場で長く働いていくために、働きやすい仕事や職場選びのポイントを紹介します。
【学習障害の方が働きやすい仕事・職場選びのポイント】
- 障がい者雇用枠を検討する
- 自分の症状を明確にする
- 困った時に相談できる窓口が設置されている会社を選ぶ
障がい者雇用枠を検討する
学習障害のある方が長く働くためには、障がい者雇用枠で働くという選択肢があります。
障がい者雇用枠とは、障害者雇用促進法に基づき、企業などが障がいのある方を一定数雇用することを義務付けた制度です。
障がい者雇用枠で働く場合は、担当者がいて職場で困ったことがあった際に相談しやすい場合や、合理的配慮を受けやすい場合が多いという特徴があります。
ただ、障がい者雇用枠で働くためには、「障害者手帳」を所持していることが条件となります。
学習障害をはじめとする発達障害のある方は、障害者手帳の中でも精神障害者保健福祉手帳の対象となります。
障害者手帳の取得を検討している方は、通院している場合は主治医や病院のケースワーカー、またはお住いの自治体の障害福祉窓口へお問い合わせください。
学習障害のある方への合理的配慮の例
合理的配慮とは、障がいのある方が職場で困難があった際に、職場に対して過度の負担とならない範囲で働きやすくなるような対策を求めることができる制度です。
学習障害のある方への合理的配慮としては、以下のような例があります。
- 特性に応じて理解しやすいように、口頭の指示ではなく文字で指示を出す、またはその逆にする
- 図や絵を用いる、漢字にフリガナを振るなど本人に理解しやすいマニュアルを作成する
- 通常手書きの書類をパソコンで作成することを認める
- 指示を理解するためのノートを書く時間を設けて、上司が内容の確認も行う
- 業務上必要な電卓や録音機などのツールの使用を認める
他にも、本人の困りごとや職場の状況を考慮して、働きやすくなるような合理的配慮があります。
合理的配慮は入社時にすり合わせるほか、困ったことがあったときは新たに調整することも可能です。上司や障がい者雇用の担当者などに相談してみるといいでしょう。
自分の症状を明確にしておく
学習障害と診断名が同じでも、一人ひとり症状や困りごとは異なります。そのため、自身の得意不得意を把握することが職場選びや対策を立てる際に大切になります。
例えば、文字の理解を苦手とする方はメールなど文章のやり取りが多い職場の業務は難しいと感じるでしょう。
逆に接客業などでタブレットでの注文や定型化された業務などであれば、苦手な作業をさけることができミスマッチを防げる確率は上がるといえます。
また、自身の特徴を把握することは対策を立てることにもつながります。計算が苦手な方は電卓、メモが難しい場合は録音機や文字起こしアプリなど、苦手をカバーするツールを使うことも有効です。
ただ、ツールを使用するには職場の許可を得ることが必要な場合が多いです。
障がい者雇用枠で働く場合は、合理的配慮として認められやすい傾向がありますので、対策の一つとして考えておくといいでしょう。
相談できる窓口が設置されている会社を選ぶ
職場内に相談できる窓口がある職場を選ぶことも、学習障害のある方が長く働くための大切なポイントです。
仕事を続けていくうちに、どうしてもうまくいかない場面は出てくると思います。
そういったときにストレスをためたままだと、先ほど紹介したような二次障害にもつながりかねません。
近年職場のメンタルヘルスケアのために、相談窓口を設けている職場が多くなっています。
何かあったときにすぐ相談できるように、まずはそういった窓口がないかを確認しておくといいでしょう。
また、50人以上の職場では産業医の選任も義務付けられています。
産業医とは、労働者の健康管理を担当する専門の知識を持った医師のことで、健康相談の受付や対応もしています。こちらも確認しておくといいでしょう。
職場外での相談窓口も活用する
障がいのある方向けの転職エージェントなどの就労サービスでは働いた後のフォローアップをしている場合もあります。
内容としては定期的に連絡を取り合い、困ったことがあった際は職場との間に入っての調整など、働き続けるためのサポートをしていることが多いようです。
職場内の窓口には言いづらいという方は、長く働くために職場外のサービスも活用していくといいでしょう。
学習障害のある方が利用できる就労サービス
学習障害のある方が働くことの悩みの相談や、就職に関わる支援を受けることができる就労サービスもあります。
得意不得意の把握や自分に合った職場探しなど、一人では難しいと感じる方は利用を検討してみるといいでしょう。
今回は以下のサービスについてそれぞれ紹介していきます。
【学習障害のある方が活用できる就労サービス】
- 発達障害者支援センター
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- ハローワーク
- 転職エージェント
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、年齢にかかわらず発達障害のある方の生活や仕事などに関する総合的な支援を提供する機関のことです。
社会福祉法人やNPO法人によって運営され、令和4年時点で全国に87か所あります。
発達障害のある方のさまざまな相談に対してアドバイスをする他、適切な医療機関や就労サービスなどを紹介するという役割も担っています。
相談には障害者手帳は必須ではないため、これから診断を受けるか悩んでいる方も相談することができます。
発達障害者支援センターで受けられる支援内容
以下のような、支援内容があります。
相談支援 | 発達障害のある方やその家族などから、日常生活での相談を受け付けて情報提供をする他に、医療機関や支援機関の紹介も行います。 |
就労支援 | 発達障害のある方やその家族からの仕事に関する悩みに対して、他の機関の紹介や、連携した支援を行うとともに、スタッフが職場へ訪問して支援を行う場合もあります。 |
発達支援 | 発達検査の実施やその結果に基づいた支援計画の作成などを行い、他の支援機関と連携して支援にあたります。 |
発達障害の専門機関で、学習障害の知識も豊富なスタッフがいることが期待できるため、一度相談してみるといいでしょう。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、障がいのある65歳未満の方を対象として、就職のためのサービスを提供している事業所です。
また、就職した後も定着支援として、利用者との面談や職場との調整などを通して働き続けるサポートをしています。
利用者は2年間の利用期間の中で、業務スキルやコミュニケーションスキルを身につけるための訓練や、スタッフのサポートを受けながらの就職活動を行っていきます。
社会福祉法人やNPO法人、株式会社などが運営し、令和3年時点で全国に3,353か所あります。
相談は障害者手帳がなくても、自治体の判断により利用が可能となることがあります。
就労移行支援事業所で受けられる支援内容
業務スキル向上の訓練 | 事務系の訓練や作業系の訓練など、業務スキルを向上させるために訓練を提供しています。また、コミュニケーションスキルやビジネスマナーなど仕事をする上で必要となるスキルの訓練も行っています。 |
自己理解や体調安定の支援 | 自身の障がい特性や得意不得意を把握するための訓練や、体調を安定させるための講座などを提供しています。 |
就職活動のサポート | ハローワークなどで取得した求人の精査や、書類添削、面接練習などを行う他、採用面接へ同行するといったサポートを提供しています。就職した後は定着支援として、定期面談や職場への働きかけなども行います。 |
就労移行支援事業所は就職活動に関するさまざまな支援を受けることができる点が特徴です。
ただ、求人の紹介やあっせんは行っていないため、求人の取得などは利用者自身で行う必要があります。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは障がいのある方へ、就職や職場定着、職場復帰をサポートしている支援機関です。
専門の職員による職業リハビリテーション計画の作成や職業準備訓練などの提供の他、働いた後はジョブコーチと呼ばれるスタッフを職場に派遣するサポートもしています。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営しており、全国47都道府県に設置されている他、東京など支所がある地域もあります。相談や利用には障害者手帳は必須ではありません。
【地域障害者職業センターで受けられる支援内容】
職業評価 | スタッフとの面談や検査などを通して相談者の適性などを把握したうえで、今後の就職のための職業リハビリテーション計画を作成します。 |
職業準備訓練 | 計画に基づいて、模擬業務を通じての業務スキルの向上や、コミュニケーションや体調管理の講座の提供といった、働くためのスキル向上の訓練を提供しています。 |
職場適応援助者支援 | 就職した後も、ジョブコーチと呼ばれる専門のスタッフを職場に派遣し、本人や職場へ働きかけをして、働きやすい環境を整えていきます。 |
地域障害者職業センターでは、働くための専門的なトレーニングを受けることができる特徴があります。また、働いた後もジョブコーチによって職場内に働きかける点も特徴といえます。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障がいのある方が自立した生活を営めるように、就労や医療、日常生活などさまざまな面でサポートを提供する支援機関です。
仕事に関することだけでなく、健康管理や年金など日常生活の困りごとも相談でき、アドバイスや他の支援機関の紹介を受けることが可能です
社会福祉法人や医療法人、NPO法人などが運営しており、2023年4月1日時点で全国に337か所設置されています。
利用登録の際に障害者手帳が必要なことがありますが、相談する際は必須ではありません。
障害者就業・生活支援センターで受けられる支援内容
就労支援 | 働くことの悩みを受け付けている他、職業訓練や職場実習のあっせん、就職活動のサポート、職場定着支援などの他、関係機関の紹介などを行っています。 |
日常生活の支援 | 体調管理や金銭管理、住宅や年金などに関する困りごとに対して、必要なアドバイスや他の支援機関の紹介を行っています。 |
関係機関との連携 | 就労支援や日常生活の支援を、ハローワークなどの機関と情報交換をしつつ連携して支援にあたっています。 |
障害者就業・生活支援センターでは、就労に関することだけでなく、日常生活に関する支援も受けることができるという利点があります。
ハローワーク
ハローワークは正式名称を公共職業安定所といい、求人の紹介や雇用保険の手続きなど、働くことに関する業務を行っている行政機関です。
ハローワークでは、障がいのある方専門の窓口が設置されており、相談から求人の紹介、書類添削など一貫したサポートを受けることができます。
ハローワークは厚生労働省が運営しており、令和4年4月1日で544か所あります。利用には障害者手帳は必須ではありません。
ハローワークで受けられる支援内容
就労相談 | 仕事の探し方や適性を把握するためのサポートや、他の支援機関の紹介や連携した支援の提供をしています。 |
就労支援 | 求人の紹介や、履歴書の書き方、面接の練習などのサポートを行う他、希望する企業で実習が受けられるように職場へ打診をすることもあります。就職後も定着支援として働き続けるためのサポートを行っています。 |
トライアル雇用などの案内 | 一定期間働いた後に就職を決める障害者トライアル雇用や、公共職業訓練(ハロートレーニング)、各種セミナーや面接会の案内など、就職に役立つ情報の提供や手続きも行っています。 |
ハローワークでは、就職に関して一貫したサポートを受けることができます。
また、場所によっては発達障害者雇用トータルサポーターといって、発達障害のある方の就職支援の専門家がいる場合がありますので、気になる方は近くのハローワークにお問い合わせください。
転職エージェント
転職エージェントとは、企業と相談者の間に入り、企業の職場環境と求職者の適性を見極めたうえでの求人紹介などで転職をサポートしているサービスのことです。
転職エージェントの中には、障がいのある方を対象としたサービスを展開している企業もあり、障がい者雇用の知識があるスタッフが、相談者の障がいの特性や得意不得意を把握したうえでサポートをしていきます。
相談するには障害者手帳は必須ではありませんが、障がい者雇用枠で働く場合は取得が必要となります。
転職エージェントで受けられる支援内容
求人紹介 | 障がいのある方への求人紹介の経験があるスタッフが、相談者と面談を通して障がい特性、得意不得意、希望する求人の条件や配慮などをヒアリングしていきます。そのうえで、数ある企業の中から相談者にマッチする求人の紹介を行います。 |
就職活動のサポート | 相談者が就職活動へ専念しやすくなるように、企業との面接日程の調整や、内定後の入社手続きなどの代行を行います。 |
入社手続きなどの代行 | 一定期間働いた後に就職を決める障害者トライアル雇用や、公共職業訓練(ハロートレーニング)、各種セミナーや面接会の案内など、就職に役立つ情報の提供や手続きも行っています。 |
就職後のフォローアップ | 就職後も安定して長く働き続けるために、電話やメールなどで定期的に連絡を取り、困ったことがあった際は相談対応や、職場との調整などのサポートをしています。 |
障がいのある方向けの転職エージェントでは、スタッフが障がいに関する知識があり、特性や職場環境などを考慮したうえでマッチする求人を紹介してもらえるというメリットがあります。
また、学習障害をはじめとする発達障害のある方が実際にどのように働いているかの知識もあるため、就職後のことも見据えた働き方や求める配慮点のアドバイスがもらえるという特徴もあります。
まとめ
大人の学習障害とは、大人になってから仕事などを通して「読み」「書き」「計算」などの困難さを感じ日常生活に支障を生じている方のことを言います。
仕事では、「フリガナがないと漢字が読みづらい」「手書きの書類を作るのに時間がかかる」「数字の計算が苦手である」などの困りごとがありえます。
大人の学習障害のある方が、長く仕事を続けるためには自分の特徴を把握して、マッチする職場で働くことや苦手への対策を取ることなどが挙げられます。
しかし、一人で進めるのは難しいと感じることがあるかもしれません。そういったときは、障がいのある方向けの就労サービスの活用も検討してみるといいでしょう。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |