2024年03月31日
うつ病で現れる仕事上での初期症状|職場での対策や仕事復帰を目指すときのポイントを紹介

目次
うつ病の症状が落ち着いて、仕事復帰や就職を検討する際には「症状が再発しないか心配」「長く働けるだろうか?」と不安に感じるのではないでしょうか。
本記事では、うつ病の初期段階で気をつけたいポイントや職場選びのポイント、活用できる就労サービスをご紹介します。
働き方のポイントがわかれば、長く仕事を続けられます。
これから就職や転職を考えている方や、うつ病と診断されて障害者手帳を取得した方はぜひ参考にしてください。
うつ病とは
うつ病とは「気分障害」に分類される精神疾患のひとつです。
うつ病になると、気分が沈んで何もする気が起こらないといった抑うつ気分などの精神症状や、睡眠障害、頭痛、食欲不振など身体症状が現れ、仕事や勉強、家事などの日常生活にも支障が出ます。
また、うつ病とよく似た疾患に「躁うつ病(双極性障害)」があります。
うつ病と躁うつ病の大きな違いは症状です。うつ病は気分が落ち込む「抑うつ」だけの症状ですが、躁うつ病は躁とうつを交互に繰り返します。
治療法においては、うつ病はうつ症状を改善する治療に対し、躁うつ病は躁とうつの気分の波を改善することが目的の治療となります。
うつ病の主な症状
うつ病の症状に、精神的な症状だけでなく身体的な症状も現れます。
主な症状は以下の通りです
【うつ病の主な症状】
精神症状 | ● 興味や喜びを感じない ● 気分がふさぎ、落ち込む(憂うつ・抑うつ気分) ● 思考力・集中力が低下する ● 自分には価値がないと感じる ● 罪の意識を感じる(自責の念) ● 死にたいと思う(希死念慮) |
身体症状 | ● 体がだるい(倦怠感) ● 食欲がない ● 疲れやすい ● 眠れない、または1日中眠い ● 性欲の減退 |
上記のほかに、頭痛やめまい、口の渇き、下痢・便秘、首・肩のコリなど体の不調が現れることもあります。
これらの症状に当てはまるものが増えていくことで、心も体も疲れ切ってしまいます。
うつ病の症状によって仕事に与える影響
上記で説明したうつ病の症状が続くことで、仕事には以下のような変化が起こる可能性があります。
- 欠勤や遅刻が増える
- 仕事の能率が低下する
- 整理整頓ができなくなる
- 服装が乱れる
- 報告・相談が少なくなる
- 同僚や職場社員とのコミュニケーション力が低下する
- 仕事中に眠気が襲ってくる
欠勤や遅刻の日数や、仕事のミスの数が増えたなどこれまでと違う変化を感じる場合は、そのままにせず、医療機関への受診や上司に相談して仕事の内容の調整をしてもらいましょう。
うつ病の症状が軽い初期段階で気をつけたいポイント
最初は軽いうつの症状も、症状が継続すると、体も心も疲れ果ててしまいます。
ここでは、症状が軽い初期段階で気をつけるポイントをご紹介します。
【うつ病初期段階で気をつけたいポイント】
- 規則正しい生活を送る
- 職場の人に相談する
- 自分のペースを守る
- 薬の服用を続ける
- 無理をしない
規則正しい生活を送る
症状を悪化させないためには、規則正しい生活を送ることが大切です。
うつ病になると「よく眠れない」「食欲が出ない」など基本的な生活リズムがくずれていきます。
わたしたちの体には体内時計がありますが、体内時計が狂うと眠気や頭痛・倦怠感・食欲不振などの不調が現れます。
体内時計を狂わせないためには、生活リズムを整えて規則正しい生活を送る必要があります。たとえば、以下のようなことを心がけると良いでしょう。
- 毎日同じ時間に起きる
- 1日3回栄養バランスよい食事をとる
- 夜更かしをしない
体の不調は日常生活の送り方に左右されます。生活の土台となる規則正しい生活を送りましょう。
職場の人に相談する
2つ目のポイントは職場の人に相談することです。
うつ病の症状が改善しない状態で、仕事を続けてもこれまで通りの働きは難しいでしょう。
無理に働きつづけても、疲れや睡眠不足、食欲不振などの身体的なストレスが重なり、症状を悪化させてしまう場合もあります。
そのような状態になってしまう前に、直属の上司や産業医などの相談窓口に相談に行きましょう。
体調が悪化しないように業務内容や仕事量など仕事の負担を減らす配慮をしてもらえる可能性があります。症状の悪化を防ぐためには、まずは一人で抱え込まずに職場の人へ相談が必要です。
自分のペースを守る
人によって違いはありますが、うつ病の改善には少なくとも数ヶ月かかると言われます。すぐには治らない病気ととらえ、自分のペースを守って生活を送ることが大切です。
うつ病を発症した当初は、心身のエネルギーが消耗している状況です。このようなときに無理に仕事をしてしまうとさらに心身が疲弊してしまうでしょう。
症状を悪化させないためには、自分のペースで働けるように仕事の調整をしたり、時には休むことも大切です。
罪悪感を抱いたり、周りから怠けていると思われたくないと考えるかもしれませんが、症状を悪化させないためには、無理をせず自分のペースを守りましょう。
薬の服用を続ける
うつ病の治療に欠かせないのが薬の服用です。うつ病の薬は、気分の落ち込みをやわらげる効果が期待できます。
一般的にうつ病の薬は、医師の指示に従って少量から飲み始め、効果と副作用を確認しながら量を増やして身体の状態に合わせていきます。状態が改善して薬を止めるときには、数ヶ月かけて徐々に薬の量を減らしていきます。
自分で症状が良くなったと思っても薬は自己判断で勝手にやめてはいけません。医師の指示がない限りは、薬の服用は続けましょう。
自己判断で薬を止めてしまうと、離脱症状がでたり、症状が悪化する恐れがあります。薬について不安や疑問がある時は、医師に相談しましょう。
無理をしない
うつ病の初期には無理をしないことを心がけましょう。
時に、不安障害にうつ病を併発することがありますが、うつ病の影響よって症状が悪化したり、長引いたりする可能性があります。
不安障害にはいくつかのタイプがあり、動悸や息切れなど激しい不安発作に襲われる「パニック障害」や人前に出ることに強い不安を感じる「社会不安障害」、そして常に不安感があり日常生活に支障をきたす「全般性不安障害」などは、うつ病を併発しやすい疾患としても知られています。
仕事を続けることで症状が悪化する恐れもあるため、主治医とよく相談しながら休職も視野に入れて考えていく必要があります。
うつ病の方が仕事復帰する際の職場選びのポイント
うつ病の症状が落ち着いて、仕事復帰や新しい職場を探す場合には自分に合った職種や業種を探すようにしましょう。
ここでは、うつ病の方が働きやすい職場選びのポイントについてご紹介します。
【うつ病の方が働きやすい職場選びのポイント】
- 自分のペースで仕事ができる
- 勤務形態が柔軟である
- 困った時に相談できる窓口がある
- 障がい者雇用枠も選択肢の一つ
自分のペースで仕事ができる
自分のペースを守りながら仕事ができる環境は、働きやすい職場と言えるでしょう。
たとえば、業務スケジュールを自分で立てられる仕事や、一人で作業をする仕事、納期にゆとりがある仕事など自分のペースで働ける仕事と言えるでしょう。
反対に、ノルマのきつい仕事や残業が多いハードワーク、また相性の悪い仕事などはストレスを感じてうつ病の症状を再発させる危険性があります。
勤務形態が柔軟である
柔軟な働き方ができる職場も、うつ病の方が働きやすい環境と言えるでしょう。最近では、勤務時間や働く場所にこだわらない自由な働き方ができる会社が増えています。
職場によっては、フレックス制やリモートワークなどを導入して会社に縛られない働き方をすることが可能です。
フレックスタイム制とは、労働者が始業・終業時刻、労働時間を決めて効率的に働くことができる制度です。
たとえば、平日の午前に通院をしたい場合は、有休を取得しなくとも、出勤時間を午後からにすることで予定に合わせた融通の利く働き方が可能になります。
困った時に相談できる窓口があるか
誰でも休職後の仕事復帰や新しい職場への就職は不安になるものです。
そのような時に職場内に悩み事を相談できる窓口があれば、安心して働くことができます。
会社によっては、社内に相談窓口が設置されている場合があります。また、一定以上の規模の職場には産業医を置くことが義務づけられているため、必要に応じて利用すると良いでしょう。
職場で気兼ねなく困りごとを相談できることも、働きやすい職場選びのポイントです。
障がい者雇用枠も選択肢の一つ
障がい者雇用枠を利用した就職も、働きやすい職場を探す方法のひとつです。
障がい者雇用枠とは、障害者手帳を保有している人が対象の雇用枠のことです。うつ病の方の場合は精神障害者保健福祉手帳の所持が条件です。
障がい者雇用枠で就職するメリットは、企業へ合理的配慮を求めることができる点です。たとえば、体力的にフルタイムで働くことが難しい場合は、企業によっては短時間勤務で雇用してもらえるなどの配慮が受けられることがあります。
また、うつ病があることを開示して働くため、周りの人の理解を得られやすく、働きやすい環境が整いやすいというメリットもあります。
一方で、一般雇用枠での就職はうつ病であることを開示して就職した場合でも、配慮の範囲や考え方は企業によって異なるため、必ずしも望む配慮が受けられるとは限りません。
うつ病の方が活用できる就労サービス
うつ病の方が就職するにあたって、困りごとや不安を相談できるサービスは数多くあります。
ここでは、うつ病の方が活用できる就労サービスを5つ紹介します。
【うつ病の方が活用できる就労サービス】
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- ハローワーク
- 転職エージェント
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は障害者総合支援法に基づく福祉サービスのひとつです。
利用できる対象は一般就労を目指す障がいのある原則18歳から65歳未満の方です。うつ病の方も精神障害のある人ということで、このサービスを受けられます。
事業所は、全国に3,006カ所あり、運営主体は、地方自治体から指定を受けた民間企業やNPO法人などです。(2021年現在)
【就労移行支援事業所で受けられる支援内容】
- メンタル面の相談
- 生活面のサポート
- 職業訓練
- 職場体験
- 就職活動の支援
- 就職後の定着支援
就労移行支援事業所では、メンタル面の相談をはじめとして、仕事復帰や就職をするにあたってストレスコントールの方法や生活リズムを整える方法なども教えてもらえます。
さらに、就職に向けて職場体験の実施や、面接指導、ビジネスマナーの講習も行われています。 就職後にも、安定して働き続けることができるよう相談にのってくれるなど、就職前から就職後までサポートが受けられます。
注意点として、就労支援事業所はあくまで障がいのある方の就職をサポートする場所です。事業所によっては独自のネットワークで就職につながるケースもありますが、基本的には求人紹介を行なう場所ではありません。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、うつ病など障がいのある方に対し、ハローワークと連携して専門的な職業リハビリテーションを提供する施設です。
全国の各都道府県に最低1つ以上設置されており、独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構が運営を行っています。
支援の対象は、障がいのある方だけでなく事業主も含まれます。障害者手帳を所持していない方でも利用可能です。
【地域障害者職業センターで受けられる支援内容】
- 職業評価
- 職業準備支援
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業
- 精神障害者総合雇用支援
- リワーク支援
- 事業者へのサポート
障がい者職業カウンセラーやジョブコーチなどの専門職員による専門性の高い支援を受けられます。
なお、地域障害者職業センターでは職業紹介や職業訓練は行われていません。あくまでも仕事に関する相談や訓練、働き続けるためのサポートが受けられる施設です。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、 うつ病など障がい者の方の職業的自立に向けて、生活面と就業面の両方のサポートを行っています。障害者手帳を所持していない方の利用も可能です。
運営主体は、都道府県知事の指定を受けた社会福祉法人やNPO法人などです。全国に338ヶ所設置されています。(2022年4月現在)
【障害者就業・生活支援センターで受けられる支援内容】
1. 就業面での支援
- 就職に向けた支援
- 就職活動の支援
- 職場定着に向けた支援
2. 生活面での支援
- 日常生活・地域生活に関する助言
- 関係機関との連絡調整
就業面は就業支援担当スタッフが、生活面は生活支援担当スタッフが分担してサポートを行います。
ハローワークや地域障害者職業センター、事業主などと連携をとりながら一体的な支援を行っています。
ハローワーク
全国各地にあるハローワーク(職業安定所)には、障がい者向けの就労を支援する 「障害者専門窓口」が設置されています。うつ病の方もこの窓口でサービスを受けられます。
【ハローワークで受けられる支援内容】
- 求人情報の提供
- 就職相談
- 就職活動の支援
- 就職後の定着支援
窓口ではカウンセリングを受けられるほか、うつ病の特性をよく理解した上で就職先を探してくれます 。 「精神障害者保健福祉手帳」を持っている方は、障がい者雇用枠の求人を紹介してもらえます。
転職エージェント
転職エージェントとは、求職者の代わりに求人情報を探したり、入社に向けて企業と交渉したりする「代理人サービス」のことです。
転職エージェントの中には、障がいのある方向けの転職エージェントがあり、障がい者雇用に関する幅広い知識や経験豊富な専門のアドバイザーが在籍しています。
【転職エージェントで受けられる支援内容】
- カウンセリング
- キャリアアドバイザーによるカウンセリング
- 転職活動全般のサポート
- 求人案内
- 面接・試験のアドバイス
- 書類の添削
- 面接日の調整
- 入社後のサポート
上記のほかにも、障がいのある方向けの転職エージェントでは、うつ病の方の受け入れ体制が整った企業の紹介や、内定企業と配慮事項の確認を行うサポートが受けられます。
まとめ
うつ病の方が長く働くうえで大切なポイントは、自分に合った働き方が可能な職場を選ぶことです。また、働く中で、うつ病の再発の予兆がみられた場合には、症状が軽いうちに、生活リズムの見直しや、職場の人に相談して、仕事の負担を減らしてもらうなどの早期の対処が大切です。
障害者手帳を取得している方は「障がい者雇用枠」で就職すると、必要な配慮を受けられます。
自分に合う職場探しや、就職活動を一人で進めることに不安を感じる場合は、公的な支援機関や転職エージェントの活用を検討してみましょう。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |