2024年03月31日
障がい者雇用枠で働くメリットとデメリット|一般雇用枠との違いを解説!
目次
障害のある方が就職先を探す際、障がい者雇用枠というのをよく目にするのではないかと思います。しかし、内容の詳細や制度の利用方法など、わからない部分も多いのではないでしょうか。
本記事では、障がい者雇用の内容と利用するメリット・デメリットについて詳しく説明しています。
障がい者雇用と一般雇用との違いも解説していますので、就職の方法に悩まれている方は、本記事をぜひ参考にしてみてください。
障がい者雇用って何?
障がい者雇用とは、企業が障害のある方を対象とした雇用枠を設けて、障がい者を採用する制度です。「障害者雇用促進法」という法律に雇用率が定められており、障がい者の安定雇用を目的としています。
企業は雇用率に基づく障がい者の雇用が義務となっており、履行しない企業は行政指導の対象となります。
【障害者雇用率制度】 従業員が40名以上在籍する事業主において、障がい者の方を次の割合以上雇用しなければならない制度 ● 民間企業 2.5% ● 特殊法人など 2.6% ● 国・地方公共団体 2.6% ● 都道府県などの教育委員会 2.5% |
令和5年1月18日に開催された審議会で、厚生労働省より民間企業の雇用率を2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%と段階的に引き上げると決定しました。
アルバイトやパートにも障がい者雇用枠は設定されており、現在は週20時間以上の無期雇用が条件です。
こちらも2022年12月に改正案が定められ、重度の知的障害・身体障害・精神障害者を対象に週10時間~20時間未満でも認められるようになります。
このような流れから、障がい者雇用の法定雇用率は今後さらに引き上げられる傾向にあります。
今後、障がいのある方が活躍できる場は、いっそう拡大していくことが予想されるでしょう。
参照)
厚生労働省「障害者雇用率制度の概要」
厚生労働省「障害者の法定雇用率の引き上げについて」
厚生労働省「第 123 回 労働政策審議会障害者雇用分科会 議事次第」
障がい者雇用の対象者
障がい者雇用の対象者は「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」を所有している方です。これらの手帳は、それぞれ対象となる障がい・疾患が異なります。
【障がい者雇用枠の対象となる障害】
障害者手帳の種類 | 身体障害者手帳 | 精神障害者保健福祉手帳 | 療育手帳 (自治体によって名称の異なる場合がある) |
対象疾患 | ● 視覚障害 ● 聴覚障害 ● 平衡機能障害 ● 音声・言語・そしゃく機能障害 ● 上肢・下肢・体幹障害 ● 心臓障害 ● じん臓障害 ● 呼吸器機能障害 ● ぼうこう又は直腸機能障害 ● 小腸機能障害 ● 肝臓機能障害 ● 免疫(ヒト免疫不全)機能障害 |
● 統合失調症 ● 気分障害 ● 非定型精神病 ● てんかん ● 中毒精神病 ● 器質性精神障害(高次脳機能障害含む) ● 発達障害 ● そのほかの精神疾患 |
● 知的障害 |
等級 | 1級〜6級 | 1級〜3級 | A(重度)、B(重度以外の中程度) *自治体によって細分化されることもある |
療育手帳に関しては、自治体によって「愛の手帳(東京都・横浜市)」「みどりの手帳(埼玉県)」「愛護手帳(名古屋市・青森県)」など、呼び方の異なる場合があります。
参照元:厚生労働省「障害者手帳について|厚生労働省 」
一般雇用と障がい者雇用の違い
障がいのある方が就職する際には、一般雇用枠と障がい者雇用枠の2種類が使えます。一般雇用枠の中でも、障害の開示の有無によって2種類に分けられます。
【雇用枠の種類】
- 一般雇用枠(クローズ就労):障がいのあることを開示せず就職する
- 一般雇用枠(オープン就労):障がいのあることを開示して就職する
- 障がい者雇用枠:障害者手帳を保有している人が対象の雇用枠
これら3つの違いは、障がいの有無を企業側に申告するかどうかが大きなポイントとなっています。
障がいの有無は就職時に開示する必要性はないため、障害者手帳を持つ方でも一般雇用で働くことは可能です。
一般的に、3種類の雇用方法には次のような差が見られます。
障がい者雇用 | 一般雇用(クローズ就労) | 一般雇用(オープン就労) | |
障がいに対する配慮 | ◎ | × | △ |
就職のしやすさ | ○ | △ | × |
定着のしやすさ | ○ | △ | △ |
職種の種類・幅 | △ | ◎ | ◎ |
障がい者雇用枠で働くメリット
障がい者雇用枠で働くメリットについて、考えられるのは次の3点です。
【障がい者雇用枠で働くメリット】
- 障がいに対する合理的配慮を受けることができる
- 一般枠より就職しやすい傾向がある
- 周りの理解が得られやすく働きやすい
障がいに対する合理的配慮を求めることができる
障がい者雇用枠で働くことで、合理的配慮を求められます。
【合理的配慮とは】 障がいのある人とそうでない人の機会や待遇を平等にするために、社会参加の障壁となっている働くための条件や環境を改善・調整するための配慮 |
合理的配慮は、企業から提供されるように法律で定められています。
一般枠で就職した場合も求めることは可能ですが、合理的配慮の内容は企業の判断に拠るところが実際には大きいため、希望する合理的配慮が受けられない可能性もあります。
合理的配慮の具体例は、次のとおりです。
- 面接時に他者の同席を認める
- ラッシュ時を避けた時差出勤の導入
- バリアフリー・ユニバーサルデザインの採用
- 時短勤務・在宅勤務の選択が可能
- コミュニケーション方法(手話・筆談など)への配慮
- 特性に合わせた職場・業務内容への配置 など
障がい者雇用枠を利用すると、これらの配慮を受けやすくなります。
一般枠より就職しやすい傾向がある
障がい者雇用枠を利用することによって、就職しやすくなる可能性があります。
障がい者採用枠は、一般雇用枠と違って障がい者の採用を目指しています。そのため、業務内容も障がいを考慮した比較的取り組みやすい業務が多い傾向です。
また、障がい者雇用枠への応募は障害者手帳が必須です。一般雇用枠では手帳の有無を問わないため、条件のよい求人の競争率は高くなる可能性があります。
障がい者雇用枠では障害者手帳が必要となるため、応募者数自体が少なくなる傾向となります。
周りの理解が得られやすく働きやすい
障がい者雇用枠で就職した場合、障がいのあることを開示しているため、周囲から障がいへの理解を得られやすくなります。
障がい者の方にとっては、自身の健康面だけではなく「上司や同僚に迷惑をかける」「障がいの特性を理解されない」などから起こる精神面の負担も抱えやすいものです。
障がい者雇用を利用した場合は、あらかじめ障がいのあることを企業に伝えているため、職場へ周知がしやすいです。
また、障がい者雇用の担当者が在籍しているので、定期的なミーティングの開催で困りごとの早期解決が可能です。
急な体調の変化や通院の許可も申請しやすいなどのメリットも考えられるでしょう。
障がい者雇用枠で働くデメリット
障がい者雇用枠の利用はメリットばかりではなく、デメリットの部分もあります。
【障がい者雇用枠で働くデメリット】
- 求人の数が一般雇用に比べて少ない傾向がある
- 障害者手帳を持っていることが条件となる
なお、賃金・教育訓練・福利厚生その他の待遇について、障がい者であることを理由に不当な差別的扱いを受けることは、障害者雇用促進法で禁止されています。
障がい者雇用枠であるから賃金が安いわけではなく、勤務時間が短いことや業務内容の制限が理由であることは、理解しておきましょう。
求人の数が一般雇用に比べて少ない傾向がある
障がい者雇用枠では就職しやすいと、先ほど説明しました。しかし、競争率は低くなりますが求人自体の数が少なく、職種の幅も狭い傾向が見られます。
障がい者雇用枠での求人を効率的に探すには、次の就労サービスを利用するとよいでしょう。
【障がい者雇用枠の求人を探す方法】
- ハローワーク:全国544カ所にある公共職業安定所。障がい者専門窓口があり、障がい者に対する就職の紹介と支援を受けられる
- 転職エージェント:一般企業が提供するサービス。求職者個人にキャリアアドバイザーがつき、就職相談から就職後のフォローまで、一貫してきめ細やかなサポートを受けられる
「地域障害者職業センター」「障害者就業・生活支援センター」といった就労サービスでも相談できますが、基本的に直接的な職業あっせんはしておらず、求人紹介はハローワーク経由となります。
障害者手帳を持っていることが条件となる
障がい者雇用枠で働くためには、障害者手帳を持っていることが条件です。
障害者手帳を所持していない場合は、就労サービスのサポートなどは受けられても、就職に関しては一般雇用枠のみとなるので注意しましょう。
ただし、障害者手帳を持っていても障がい者雇用枠にしか応募できないわけではありません。一般雇用枠を利用した就職もできますので、自分に合った方法をとるとよいでしょう。
転職エージェントが障がいのある方にサポートできること
障がい者雇用の求人を探す場合、転職エージェントの利用もおすすめです。障がい者の方の就職を専門で取り扱う「障がい者転職特化型」の転職エージェントもあります。
【転職エージェントで受けられる支援内容】
- 就職に向けてのカウンセリング・転職活動全般のサポート
- 就職市場・業界情報の提供
- 書類添削・模擬面接など採用試験対策
- 企業への応募・面接日程の調整
- 入社後のアフターフォロー
転職エージェントを利用することで、障がい者の就職に詳しいキャリアアドバイザーによる手厚い支援を受けられます。自身の特性や症状など、就職に不安のある方でも就職前から就職後まで一貫したサポートを受けられるのが最大のメリットです。
障がい者雇用枠の求人を扱う転職エージェントの利用で、希望に合った企業の紹介が受けられる可能性は高くなります。申込時に障害者手帳の必要となるケースがありますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
まとめ
障がい者雇用は、障害者手帳を持つ方が利用できる雇用枠であり、働く機会を得やすくするための施策です。法的にも徐々に整備されてきており、今後さらに拡大することが予想されます。
ただし、障がい者雇用にもメリットとデメリットがあります。障害者手帳を持っている方でも、障がい者雇用枠を利用せずに一般雇用枠での就業も可能です。
障がいの開示も義務ではなく、本人の意思に任されています。自身の働き方を検討して、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
求人を探すには、さまざまな方法があります。転職エージェントを利用すると、きめ細やかなサポートを受けながら活動が可能ですので、利用してみるのもよい方法です。職探しの際は、ぜひ検討してみてください。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |