2024年03月31日
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方に向いている仕事とは|就職時に考慮すべきポイントと利用できる支援を紹介!

目次
- 自閉症(自閉症スペクトラム障害)とは
- 自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方に向いている仕事・負担になりやすい仕事
- 自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方が就職する時に考慮したいポイント
- 自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方が活用できる就労サービス
- まとめ
自閉症(自閉症スペクトラム障害)は、最近では20~50人に一人の割合で見られるといわれている、発達障害の一つです。その症例は幅広く、さまざまな特徴をもった方が見られます。
本記事では、自閉症の症状や向いている仕事、仕事を探す上でのポイントについて説明しています。
どのような職に就けばよいか悩まれている方は、最後まで読んで参考にしてみてください。
※「自閉症スペクトラム障害(自閉スペクトラム症)」の表記で統一すべきところですが、一般的わかりやすさの観点から、あえて「自閉症」としています。
自閉症(自閉症スペクトラム障害)とは
自閉症(自閉症スペクトラム障害、ASD:Autism Spectrum Disorder)は、多くの遺伝的要因によって起こると考えられている脳障害で、発達障害の一つです。
発達障害には、次の種類があります。
【発達障害の種類】
- 自閉症スペクトラム障害(ASD):人とのコミュニケーションが困難である障がい。特定のことに強いこだわりを持つケースもある。
- 注意欠如・多動症性障害(ADHD):落ち着きがなく、不注意が多く見られる障がい。
- 学習障害(LD):「読む」「書く」「計算する」など特定の学習のみに困難が認められる障がい。限局性学習症(SLD)とも呼ばれる。
以前は「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」「広汎性発達障害」「自閉症」などとも呼ばれていたものが、DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)の発表により自閉症スペクトラム障害(ASD)に統一されました。
しかし、現在でも「発達障害者支援法」といった法律内で「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」という名称を用いられるケースがあります。
本来は「自閉症スペクトラム障害(自閉スペクトラム症)」の表記で統一すべきところですが、わかりやすさのため、本文では「自閉症」としています。
自閉症の定義については、次のとおりです。
【自閉症スペクトラム障害の定義】 1. 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること 2. 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ など) 3. 発達早期から1,2の症状が存在していること 4. 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること 5. これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されないこと |
自閉症は発達障害の一つであり、詳しい原因はまだ特定されていません。育て方が発症の原因ではなく、生まれつきの脳障害が要因だと考えられています。
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の主な症状
自閉症によく見られる主な症状は、次のとおりです。
【自閉症スペクトラム障害の主な症状】
- 「一方的に話す」「視線を合わせられない」など、対人関係において困難に感じるケースがある
- 「言葉を発さない」「オウム返しばかりする」など、言葉の発達の遅れが見られることがある
- 特定のものや場所にこだわりが強いケースがある
これらはあくまで一例であり、特性の程度や現れ方は人それぞれ異なります。
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の症状が仕事に与える影響
自閉症の症状によっては、次に見られるように仕事をする上で困るケースがあります。
【自閉症スペクトラム障害の方が仕事をする上で困っていること】
- あいまいな指示だとわからなくなることがある
- 意思疎通をうまく取れない時がある
- 想定外のことが起こると対処できないことがある
- 相手の気持ちを読み取れないことがある
- 自分のルールを守れないとパニックに陥ることがある など
上記のような困難に直面した際に心理的な負担を感じる人も多く、「引きこもり」「うつ病」「パニック障害」「気分障害」など、二次的な症状が出るケースも見られます。
自分はどんなことに困っていて強いストレスを感じるのか、自分自身を知っておくことも非常に大切です。
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方に向いている仕事・負担になりやすい仕事
自閉症の方にとって、向いている仕事と負担になりやすい仕事の一例を紹介します。ただしあくまで参考であり、必ずしも全員に当てはまる内容ではないことはあらかじめご了承ください。
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方にとって向いている仕事
自閉症の方によく見られる強みとして、自分の関心が高い分野に対する集中力が挙げられます。特定の領域の記憶力に優れており、情報処理能力の高い方が多く見られるのも特徴です。
また、対人関係に悩みを持つ方が多いのも、自閉症の方によく見られます。そのため、不特定多数の人とあまり関わりを持たない環境での仕事も向いています。また、ルールを守って定型作業を続ける仕事も特性に合っているでしょう。
そのような特徴を生かせる仕事に就くことで、自分の強みを最大限に発揮できます。
【自閉症の方に向いていると思われる仕事】
- プログラマー
- 工場の製品管理・ライン作業
- 清掃業務
- 研究職 など
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方にとって負担になりやすい仕事
自閉症の方によく見られるのが、対人関係での悩みです。そのため、人との関りの多い仕事に就くと、ストレスをためる原因になりえます。
また、空気を察知したり臨機応変に対応したりするのも、あまり得意でないことがあります。自分の特性を理解しておき、負担にならない仕事を選ぶようにするのがポイントとなるでしょう。
【自閉症の方に負担になりやすいと考えられる仕事】
- 営業職
- 接客業
- 窓口業務
- コールセンター など
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方が就職する時に考慮したいポイント
自閉症の方が就職するときに考慮したいポイントとしては、次が挙げられます。
【自閉症の方が考慮したいポイント】
- 障がい者雇用枠を検討する
- 自分の得意・不得意を説明できるようにしておく
障がい者雇用枠を検討する
障害者手帳を持っている方は、障がい者雇用枠を利用するのもよいでしょう。自閉症がのる方は、3つの雇用枠を選択できます。
【雇用枠の選択肢】
- 障がい者雇用枠:障がい者手帳を保有している人が対象の雇用枠
- 一般雇用枠(障がいオープン):障がいがあることを開示して就職する
- 一般雇用枠(障がいクローズド):障がいがあることを開示せずに就職する
自閉症のことを開示して就職する場合、障がい者雇用枠と障がいを開示した一般雇用枠が利用可能です。障がいのあることを開示した場合、職場へ合理的配慮を求められます。
【合理的配慮とは】 社会生活を送るうえで、障がいの特性によってであう困りごとを取り除くための配慮のことです。企業は過重な負担とならない範囲で、必要かつ合理的な配慮を提供するよう努めなければなりません。 |
障がい者雇用枠を利用すると面談の機会があり、働きやすい環境をより整えやすいメリットがあります。ただし、利用には障害者手帳が必要となります。また、配慮可能な職種には限りがあるため、希望する職種を選べるとは限りません。
一般雇用枠で障がいを開示して就職した場合にも、企業に合理的配慮を求めることは可能です。しかし、合理的配慮の内容は、実際には企業の判断に拠る所が大きいため、望んだ配慮が受けられない可能性があります。
障がいのあることを開示せず一般雇用枠で就職する場合、職種を選ばず就職できますが、合理的配慮を受けることは難しいと考えられます。
個人によって合う働き方がありますので、自身に合った方法を考慮して選ぶのが大切です。
自分の得意・不得意を説明できるようにしておく
自閉症の方は、自分の障がいをよく理解して得意なこととそうでないことを説明できるようにするのが大切です。
自閉症の方は、自分にある症状がわかっていて、得意分野のはっきりしているケースが多く見られます。
そのため、自分がどんなときにストレスを強く感じるのか、どんな作業が得意なのかなど、自身の理解を深めることで就職時のミスマッチを防ぎやすくなります。
就職の面接時に職場へ具体的に伝えておくようにできれば、自分の強みを生かせる職場が選べる可能性が高まるでしょう。
【自閉症の方が就職時に職場に伝えておきたいこと】
- どのような症状があるか
- 自分が得意なのはどのような作業か
- どのような作業にストレスを感じるか など
また、障がい者向けの転職エージェントや就労サービスなど、相談窓口が利用できるものもあります。就職に不安な面のあるときには、利用を検討するとよいでしょう。
自閉症(自閉症スペクトラム障害)の方が活用できる就労サービス
自閉症の方が就職するにあたって利用できるサービスは、数多くあります。具体的には、次の就労サービスが挙げられます。
【自閉症の方が活用できる就労サービス】
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- ハローワーク
- 転職エージェント
就労移行支援事業所
「就労移行支援事業所」は、病気や障がいが原因で求職中・離職中の方に対して、就労に必要な知識と能力を訓練して一般就労を目指す通所型の支援サービスです。自閉症は発達障害に含まれるため、「障害福祉サービス受給者証」があれば利用できます。
地方自治体から指定を受けた施設が運営しており、令和2年現在で全国に3,301カ所となっています。
【就労移行支援事業所で受けられる支援内容】
- 一般就労への移行へ向けた訓練、適性に合った職場探し、就労後職場定着のための支援 など
- 個別支援計画の進捗状況に応じ、職場実習などさまざまなサービスを組み合わせた支援
- 利用者ごとに原則2年以内で利用可能(必要性が認められた場合、最大1年間延長可能)
就労移行支援事業所では、最初に面談を実施し、職業スキル・体調管理・症状との向き合い方など、一人ひとりに合わせたサポートを受けられるのが特徴です。就職実現から継続勤務までサポートしてもらえるのが、大きなメリットと言えます。
地域障害者職業センター
「地域障害者職業センター」は「独立法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」が手掛けている事業です。専門的な職業リハビリテーションサービスを、障がい者の方に向けて実施しています。
各都道府県にそれぞれ1~2つずつ設置されており、受けられる支援内容は次の通りです。
【地域障害者職業センターで受けられる支援内容】
- 職業相談・職業適性の評価・職業リハビリテーション計画の策定
- 個別の課題に応じた職業準備支援
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)による個人の特性を踏まえた雇用支援
- 休職している方が職場復帰できるための課題の整理とリワーク支援 など
地域障害者職業センターでは、一人ひとりの特性に合わせた専門的な支援を幅広く受けられるのが特徴です。発達障害のある方に向けて「発達障害者就労支援カリキュラム」が組まれており、求職活動支援と就労支援ネットワークの構築を体系的に実施しています。
障害者就業・生活支援センター
「障害者就業・生活支援センター」(なかぽつ・就ぽつ)は、近隣の地域において就業・生活における一体的な支援をおこなう機関です。18歳以上で障害者手帳を持つ方であれば、誰でも利用できます。
厚生労働省から委託された事業所によって運営され、令和4年4月1日現在で全国338カ所に設置されています。
受けられるおもな支援については、次の通りです。
【障害者就業・生活支援センターで受けられる支援内容】
- 就業面での相談支援(就業準備訓練、就職活動、職場定着に向けた支援など)
- 障がいのある方それぞれの特性を踏まえた雇用について、事業所に対する助言
- 日常生活・地域生活に関する助言(日常生活の自己管理、地域生活、生活設計への助言など)
- 関係機関との連絡調整
障害者就業・生活支援センターは数が多く、近隣の障がい者の方が対象の施設のため、より地域に密着したサービスが受けられます。就職相談だけではなく生活相談も受け付けているため、社会生活全般の相談が可能です。
ハローワーク
「ハローワーク」は、厚生労働省が全国に設置している公共職業安定所で、令和4年4月現在、全国に544カ所設置されています。障がいについて専門的な知識を持つ担当者のいる専門の窓口が設けられており、障害者手帳を持たない方でも窓口利用ができます。
おもなサービスは、次の通りです。
【ハローワークで受けられる支援内容】
- 職業相談・職業紹介
- 障がい者の方向け求人の確保
- 関係機関と連携した就職支援
- 採用面接時の同行・採用後の継続的な支援
- 発達障害者雇用トータルサポーター
- ハロートレーニング
- 職業リハビリセンター
ハローワークは就業に関する支援が中心です。ハローワークには「発達障害者雇用トータルサポーター」が在籍しており、自閉症の方を含めた発達障害のある方を対象として、一貫した支援がおこなわれています。
各種就労支援機関と連携しているため、相談内容に応じて適切な機関の紹介を受けられます。まずハローワークを訪ねてみて、就労について相談してみるとよいでしょう。
転職エージェント
「転職エージェント」では、専門のキャリアアドバイザーが求職者個人につき、企業との間を取り持って転職を支援してくれます。転職エージェントには、障がい者の方の就職を専門で取り扱う特化型のサービスもあります。
【転職エージェントで受けられる支援内容】
- キャリアアドバイザーによるカウンセリング・転職活動のサポート
- 就職市場・業界情報など、最新情報の提供
- 書類添削・模擬面接などの採用試験対策
- 企業への応募・面接日程の調整
- 入社日までと入社後のフォロー
転職エージェントに登録することで、専門性の高いキャリアアドバイザーから手厚い支援を受けなから就職活動できます。自身の特性や症状などで就職に不安のある方でも、就職後までサポートを受けて転職活動を進められるのが最大のメリットです。
まとめ
自閉症の方にはさまざまな特性が見られることから、それにマッチした働き方を見つけられると強みを発揮できるでしょう。その逆もまたしかりで、自分に合わない仕事を選ぶと不調をきたす結果となりかねません。
そうならないためには、自身の特性をよく理解することが大切です。就労サービスのサポートをうまく利用して、自分に合った職場をゆっくりと探していきましょう。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |