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障がい者雇用枠で働くことが辛いと感じる理由3つ|現状や対策も紹介

目次

障がいのある方への理解を深め、共に働く動きが加速しています。最近は、「障がい者雇用枠」で障がいのある方を雇用する企業も増えていますが、課題も浮上しています。

この記事では、障がいのある方や家族などが知っておきたい、障がい者雇用枠で働くことが辛いと感じる3つの理由や対処法を紹介します。

障がい者雇用枠とは

障がい者雇用枠とは、障がい者の雇用機会を促進するため設けられた雇用枠です。厚生労働省は、自治体や一定以上の従業員のいる企業に対し、障がいのある方の雇用を義務づけています(これを「障害者雇用率制度」といいます)。

2021年3月1日の法定雇用率は、民間企業に対しては2.3%、国や地方自治体に対しては2.6%となっています。たとえば、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者手帳を持っている方を1人雇用するよう義務づけられています。

障がい者雇用枠は、「障がい者求人枠」や「障がい者枠」とも呼ばれ、障がいのある方が仕事を通して、誇りをもって自立した生活を送れるようになることを目的としています。就労の条件には、以下のいずれかを所有している必要があります。

  • 身体障害者手帳
  • 療育手帳(愛の手帳)
  • 精神障害者保健福祉手帳

障がい者雇用枠で就職する場合は、本人の障がいを企業側にオープンにする必要があります。入社すると、自分の障がい特性や病気などに対する配慮を会社側に求めることができます。これは合理的配慮といって、障がいの特性によって働きづらさが生じている場合に企業がその解消のための対応をすることで、「特性により通勤ラッシュが苦手」という方に時差出勤を認めたり、出勤日と通院日が重なった時に時間給の取得をしやすくする等があります。

障がい者雇用の現状

障がい者の就職件数は、年々増え続けています。2020年、企業に雇用されている障がいのある方の人数は、57万8,292人で過去最高となっています。内訳をみると、身体障がい者は35万6,069人、知的障がい者は13万4,207人、精神障がい者は8万8,016人です。いずれも前年より増加しています。とくに、精神障がい者の伸び率が大きかったです。

産業別の実雇用率は、「医療・福祉」、「電気・ガス・熱供給・水道業」で法定雇用率を上回っていました。

一方、2017年の調査で、障がい者の離職率が高いこともわかっています。就労継続支援A型を含む就職先での定着率は、就職後3か月時点では 80.5%でしたが、1年時点になると 61.5%と低下しています。そして、就職後1年時点の定着率では、精神障がい49.3%と半分の人が辞めていることがわかります。

1年で離職した理由で多かったのは、「自己都合」でした。3か月未満では、「労働条件があわない」、「業務遂行上の課題あり」が理由として多く、3か月以降1年未満で離職した理由で多いのは、「障害・病気のため」でした。

障がい者雇用枠で働くことが辛いと感じる理由

企業が設けている「障がい者雇用枠」ですが、いざ就職してみると現実の厳しさに直面する方も少なくありません。障がい者雇用枠で働いて辛いと感じる理由で多いのは、次の3つです。

  • 賃金や労働条件に不満がある
  • 仕事がもらえない
  • 障がいへの配慮がない

この章ではどういった点で辛いと感じることがあるのかを紹介し、次の章では辛さを軽減する方法を紹介いたします。合わせてご覧ください。

賃金や労働条件に不満がある

障がい者雇用枠で入社した際に、働くことが辛いと感じる理由のひとつが賃金や労働条件が合わないことです。精神や知的、発達に障がいのある方の労働時間は、週20時間以上30時間未満の割合が30%~40%と高く、一般雇用枠で働く人と比べて短いことがわかります。

2018年度の厚生労働省の調査によると、障がいのある方の平均月収は、知的障害者11万7,000円、精神障害者12万5,000円、発達障害い者は12万7,000円と、いずれも10万円台でした。

他方、一般枠で働いている社員はどうなのかといえば、「賃金構造基本統計調査」によると、平均月収は男性33万7,200円、女性25万3,600円で、全体の平均月収は30万7,400円でした。

また、「労働統計要覧」によると、平均の週労働時間は約39時間となっており、労働時間の違いが平均月収の違いにもつながっていると考えられます。

仕事内容などによって、障がいのある方が希望する賃金や労働条件とのギャップが辛いと感じる理由となっているようです。

ただ、時間が短いということは無理なく働けるということにもつながりますので、ゆっくりと職場に慣れたり体調を安定させた後に、時間を延ばす話し合いを行っていくといった方法で希望する労働条件に近づけていくこともできます。

仕事を任せてもらえない

障がい者雇用枠で辛いと感じる2つ目の理由は、「仕事を任せてもらえない」ことです。その理由には、企業の担当者が障がい者の特性を理解しておらず、どのような業務を与えればよいのかわからないことも多いようです。中小企業では業務内容も限られており、採用したけれど社内に適切な仕事が見つからないケースもあります。

また、上司や同僚が遠慮しすぎて、仕事を任せないこともあります。

障がいのある方が働く場所は、現状では業務内容が限られていることが多く、スキルや経験を活かして仕事の幅を広げたい方や専門性を高めたい人には、もの足りなさを感じるケースもあるかもしれません。

企業側も障害のある方に何を任せていいのか分からないということが多いので、そういったときは自身の特性によって「できることできないこと」を整理して伝えるようにすると、企業としても任せられる仕事を見つけやすくなるでしょう。

障がいへの配慮がない

障がい者が就労して感じる辛さに、周囲の「障がいへの配慮不足」があります。せっかく入社したものの、会社はもちろん、上司や同僚に障がいについて配慮してもらえず、働きにくさを感じている方も少なくありません。

たとえば、車椅子を使用している方であれば、会社の出入り口にスロープがあったり、多目的トイレが設けられていたりすると働きやすいのですが、会社が対応していないケースもあります。

ほかにも「複数の人から指示を受けると混乱してしまう」という傾向がある方が、指示を出す人を一人に絞ってもらうよう配慮を求めていても、部署の忙しさなどからどうしても複数の人から指示が出されることが多くなり、能力を発揮できないというようなケースもあります。

自分だけで合理的配慮を求めるのが難しい場合は、後ほど紹介する支援機関を活用して伝えるのも一つの方法です。

上記のような理由で、障がい者雇用枠で働いていても辛いと感じる場合もありますが、働きやすくするためのポイントもあります。次の章で詳しく紹介していきます。同様の辛さを感じている方は是非参考にしてみてください。

障がい者雇用枠で働くことを辛いと感じないためのポイント

障がい者雇用枠で長く働くには、職場で感じる辛さを軽減させることが大切です。仕事に集中できる環境作りのポイントをまとめてみました。

  • 障がい者トライアル雇用制度を活用する
  • 職場実習を活用する
  • 配慮してもらいたい事項をまとめる
  • 障害者就業・生活支援センターを活用する

障がい者トライアル雇用制度を活用する

まず、活用したいのが「障がい者トライアル雇用制度」です。この制度は、障がいのある方が約3~6カ月間、会社で試しに働いてみる制度です。精神障がいのある方については、最大12カ月間までトライアル雇用として働くことができます。トライアル期間中に就労する会社の支援や適性をチェックできるので、入社後のギャップを軽減できます。

就職先で見極めたいポイントとしては、以下があります。

  1. 仕事内容が自分に合っているか
  2. これまでの経験が役に立つか
  3. 職場環境が合っているか など

会社側にとっても、試用期間中に本人の適性を見きわめることができます。また、どのような配慮や支援が必要かを双方で確認したうえで、本採用につなげられるというメリットがあります。このため、トライアル雇用制度を活用した方の継続率は85.5%と高くなっています。

ただし、障がい者トライアル雇用の対象者には以下の条件があります。

【障がい者トライアル雇用の対象者】

  1.  1.これまでに働いたことのない職業に挑戦してみたい方

紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望していること

  1.  2.離転職を繰り返し、長く働き続けられる職場を探している方

紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返していること

  1.  3.働いていない期間がしばらくあったが、再び就職しようと考えている方

紹介日の前日時点で離職期間が6か月を超えていること

  1.  4.重度身体障害、重度知的障害、精神障害のうちいずれかのある方

(④の方は、①~③の要件に関わらず、障害者トライアル雇用の対象になります)

引用元:厚生労働省「障がい者トライアル雇用のご案内

職場実習を活用する

会社で働くことへの不安を解消する方法に「職場実習」があります。障がい者トライアル雇用制度と混同されやすいのですが、この職場実習は雇用を前提にしたものではありません。あくまでも、社会経験の一環として障がいのある方に職場で働いてもらい、その後の就職に役立ててもらうことを目指しています。

職場実習の対象者は、就労支援機関等で支援を受けている方や特別支援学校の生徒、ハローワークに求職申し込みをしている方などです。

実習では受け入れ先の企業で指導を受けながら、実際に仕事をしていきます。職場での体験を通して、どのような職場環境や業務が自身の特性とマッチしているかといったことを知ることにつながります。

受け入れ先は障がい者雇用に関心の高い企業が多いので、職場実習を経て、実際に就労する方も少なくありません。職場実習を体験するメリットとしては、自分の能力や適性を事前に確認できたり、職場の雰囲気や交流を通じて、就労への不安を軽減できることなどがあります。

配慮してもらいたい事項をまとめる

現在、日本では障害者差別解消法の施行により、障がいのある方への合理的配慮が求められています。これは企業に対し、障がい者が感じている支障(バリア)に配慮した対応を求めるものです。

ただし、企業側もすべてに対応できるかというと、なかなか難しいのが現実です。その取り組みは、事業規模や障がい者雇用の実績によっても温度差があります。

そのため、障がいのある方は自身で配慮してもらいたい事項をまとめておき、会社に伝えることも必要です。たとえば、以下の内容をまとめておくと、会社もイメージがつかみやすくなります。

  • 勤務時間(時差勤務や時短勤務)
  • 業務量・業務内容(電話応対の免除等)
  • 定期的な通院・カウンセリングの許可(出勤日の場合)
  • 障がいの特性に応じた環境整備
  • コミュニケーション方法(指示の仕方)
  • 定期的な面談(相談相手の選任) など

配慮事項を自身で伝えることは、わがままだと受け取られないかと心配する方もいます。こうしたときは、社内の就労支援スタッフや外部の専門家に相談して、会社側に提案してもらうこともひとつの手段です。働きつづけている中で発生しそうな問題は、早めに配慮事項として伝えることをおすすめします。

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障害者就業・生活支援センターを活用する

「障害者就業・生活支援センター」の活用も、障がい者雇用枠で働くことの辛さを軽減させる方法の一つです。同センターは、障がいのある方の身近な地域において、就業面と生活面の一体的な相談・支援を行う支援機関です。全国に設置されており、一般企業で働きたい方や、障がい者の雇用に取り組んでいる、もしくはこれから取り組みたい企業への相談・支援を行っています。

就業に関する相談支援としては、①就職に向けた準備支援(職業準備訓練、職場実習の斡旋)、②就職活動の支援、③職場定着に向けた支援などがあります。

利用したい場合は、近くある「障害者就業・生活支援センター」に電話をして面談の予約をします。相談は無料です。
2022年4月1日時点で全国に338か所設置されています

令和4年度障害者就業・生活支援センター・一覧(厚生労働省)

まとめ

障がい者雇用枠を活用して、企業で働く方は増えていますが、現場で働きづらさを感じている人は少なくありません。その背景には、「賃金や労働条件に不満がある」、「仕事がもらえない」、「障がい者への配慮がない」といった問題があります。

障がいがあっても長く働き続けるには、障がい者トライアル雇用制度や職場実習など、行政が用意している制度を賢く利用するものひとつの方法です。また、会社側に配慮してもらいたい事項を伝えることも大切です。

職場で孤立し、辛い日々を送らないためにも障がい者雇用枠で働くことの問題点を知り、利用できる制度を整理・検討しておくと良いでしょう。

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【本記事監修者】
佐々木規夫様           

産業医科大学医学部医学科卒業。
東京警察病院を経て、HOYA株式会社の専属産業医及び健康推進G統括マネジャーとして健康管理に従事。現在は上場企業や主要官庁を中心に産業医をしながら、精神科医としても勤務している。また、北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場コミュニケーション、組織公正性に関する研究や教育を行なっている。
【資格】
産業医、精神科専門医、精神保健指定医、医学博士、日本産業衛生学会専門医・指導医、労働衛生コンサルタント、社会医学系専門医・指導医、メンタルヘルス法務主任者

 

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