2024年03月31日
強迫性障害の方に向いている仕事とは?|就職・仕事復帰のポイントと支援を紹介!

目次
強迫性障害とは、「ミスをしている気がして、必要以上に確認を繰り返してしまう」というように、本人も現実的ではないと認識しながらも考えや行動を止めることが難しく、生活や仕事に影響が出ている疾患のことです。
しかし、強迫性障害といってもその人や職場環境によって症状も対策も異なるため、強迫性障害の理解とともに自分自身の理解を深めることが働きやすさに繋がります。
今回は強迫性障害の説明とともに、強迫性障害の方が仕事探しや働き続けるためのポイント、仕事で活用できる就労サービスなどを紹介していきます。
強迫性障害とは
強迫性障害とは、頭の中にしつこく浮かぶ不快な考えやイメージ(強迫観念)が強くなり、それを打ち消そうとするくり返しの行為(強迫行為)のために日常生活に大きな影響をおよぼす疾患ことです。
例えば、「家の鍵をかけたか不安になって、何度も繰り返し確認しに戻る」といった例があります。
もちろん、鍵の確認で戻ったという経験自体は誰にでもあるでしょう。しかし、強迫性障害の場合はそれが現実的ではないとわかっていても考えにとらわれて、行動を抑えることができなくなります。
そのため、強迫性障害の方は、「戸締りを何度も確認するため、会社に遅刻することがある」「不安から必要以上に確認を繰り返し納期に遅れることがある」といった症状のために社会生活に影響が生じることがあります。
強迫性障害の発症の要因はまだはっきりとは分かっておらず、ストレスやそれまでの経験、周りの環境など多くのことが関連していると考えられています。
しかし、要因がわからなくても治療をおこなうことは可能で、現在では薬物療法やカウンセリングなどを通して改善が見込まれる障がいでもあります。
強迫性障害の主な症状
強迫性障害の主な症状として「強迫観念」と「強迫行為」があると紹介しました。他にもうつ病などを併発している場合があります。
【強迫性障害の主な症状】
強迫性障害の症状 | 特徴 |
強迫観念 | 頭から離れない考えのことで、その内容が「不合理」だとわかっていても追い払えない |
強迫行為 | 強迫観念が浮かんだ結果、それを打ち消すための行動を起こす |
他の精神疾患の併発 | うつ病やその他の不安障害、パーソナリティ障害などを併発することがある |
強迫観念の例として、「ドアノブを触ったら病原菌がついて病気になるのでは」という考えがあります。その考えがどんなに不合理だとわかっていても、頭から追い払うことが非常に難しいものになります。
強迫行為の例としては、強迫観念が浮かんだ結果「手を何度も繰り返し洗う」といった行動に移すことがあります。こちらも自らの意志で止めようと思ってもどうしても、打ち消すための行動をとってしまいます。
そして、強迫性障害の診断にはこの強迫観念と強迫行為のどちらか、またはその両方が現れていることが条件の一つとなります。
また、強迫性障害では他の精神疾患とも併発することがあり、とくにうつ病が多いといわれています。これは強迫性障害による影響で、不安や緊張状態が続いたり、心身の疲労がたまりやすくなることも要因の一つといわれています。
強迫性障害かもしれないと感じたとき
強迫性障害は、火元の確認や何かを触った後の手洗いなど、ほとんどの方が日常生活で経験することに関連しています。
「火を消し忘れたかもしれない」「汚れが付いたかもしれない」と思って不安になったことは誰もがあることでしょう。そのため、どこからが強迫性障害か明確な線引きは難しいともいわれています。
とはいえ、日常生活や仕事において辛い思いをしている場合は、一人で抱え込まずに精神科や心療内科、メンタルクリニックなどを受診するといいでしょう。
強迫性障害の症状が仕事に与える影響
ここでは強迫性障害の強迫観念や強迫行為が、仕事に与える影響を見ていきます。
強迫性障害と一口にいっても、すべての人が同じことで困るわけではありません。しかし、傾向を知っておくことは対策を立てる際にも有効なので、参考として把握していただけたらと思います。
【強迫性障害の方が仕事中に困っていること例】
- 強迫観念が抑えられず業務に集中できない時がある
- 「ミスをしたのでは」という不安のために確認を繰り返し作業が遅れる場合がある
- 他の人が触ったものをそのまま使うことが難しい時がある
- 配置や手順いつもと違うと不安が強まって仕事が手につかないことがある
基本的には業務や職場環境に対して心配が強くなり、うまく働けない状況になることや、不安から業務を避ける・取り掛かるまで時間がかかる、という傾向があります。
ただ、同じ強迫性障害でも、人によってどのような症状が生じるかは異なります。またその時の体調や、周りの環境などによっても変わってきます。
重要なのは、どんなことに困っているのか、どんなことにストレスを感じやすいのか、という傾向を知っておくことです。自分自身を把握することは、対策を立て安定して仕事をするためにも大切なポイントの一つです。
強迫性障害の方が就職・仕事復帰する時のポイント
ここでは強迫性障害の方は、これから就職するときや、仕事に復帰するときに、働きやすくするためのポイントを紹介していきます。
【強迫性障害の方が就職・仕事復帰する時のポイント】
- 強迫性障害の方に向いている仕事を知る
- 困った時に相談できる窓口が設置されている会社を選ぶ
強迫性障害の方に向いている仕事を知る
強迫性障害の方は、どのような仕事だと働きやすいのでしょうか。
まず、強迫性障害によって応募できる仕事に制限がかかる、ということはありません。ただ、なるべく不安が高まりにくい職場環境が向いているといわれています。その例を紹介します。
【強迫性障害の方に向いている仕事例】 ● 業務内容がある程度決まっている仕事 ● スケジュールの変化が少ない仕事 ● フレックスタイムや在宅勤務など柔軟な働き方ができる仕事 |
毎日、あるいは毎月の業務内容の流れが決まっていて、見通しが立ちやすい仕事だと確認項目も少なくなり、結果として不安が生じづらいということがあります。同時に、納期やノルマが厳しすぎないことも不安感を高めないために大事な要素といえます。
また、業務内容とともにスケジュールも変化が少ないと、不確定要素が少なくなり不安を感じる機会が少なくなるといえるでしょう。例えば、繁忙期などがなく一年間で業務時間の波が少なかったり、突発的な残業があまりなかったりといったことが挙げられます。
他にも、フレックスや在宅勤務など働き方に幅があると、電車に乗る機会を減らすことができるなど、自身が苦手な場面を避けることができ、強迫性障害の症状を感じづらくなるでしょう。
逆に言うと、時間や業務内容が不規則で、変化が多く突発的な対応を求められる職場だと不安が生じやすいとも言えます。
自分を知ることも大事
今回、紹介したものはあくまで一例です。例えば、一人で業務を進めると安心できる方もいれば、チームで進める作業だと安心できる方もいます。
また、同じ業務内容だとして、その人ごとの得意不得意によってもストレスは変わってきます。自分を知り、強迫性障害の傾向を参考にしながら向いている仕事を探していくといいでしょう。
一人で難しい場合は、後ほど紹介する就労サービスに活用することで、スタッフと一緒に整理していくことも可能です。向いている仕事が分からずに悩んだときは一つの選択肢にするといいでしょう。
困った時に相談できる窓口が設置されている会社を選ぶ
強迫性障害の方が働くうえで、相談窓口が設置されている会社を選ぶことも大事になってきます。
相談窓口では業務内容や人間関係に関するストレスや不安などを相談することができ、アドバイスや現場への働きかけ、外部のカウンセラーとの連携といった対応をしてもらえることが多いようです。
相談窓口が設置されているかは会社によって異なりますが、「第 13 次労働災害防止計画」として厚生労働省も推し進めており、50人以上の従業員がいる職場の約半数で相談窓口が設置されています。こちらは平成30年のデータなので、現在はさらに増えていると予想されています。
従業員50人以上の職場ではさらに、「産業医」といって労働衛生の専門的な知識や経験を備えた医師の選任義務があります。産業医に相談することで、メンタルヘルスなどの専門的なアドバイスや外部の医療機関との連携などの対応をしてもらえることがあります。
このような会社の相談窓口を活用していくことで、安心感を持って働くことに繋がってきます。
強迫性障害の方が活用できる就労サービス
強迫性障害の方が就職活動や働き続けるために活用できる就労サービスがあります。自己理解や向いている仕事探しなど、一人で進めていく中で難しいと感じたときは相談してみるとさまざまな支援を受けることが可能です。
【強迫性障害の方が活用できる就労サービス】
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- ハローワーク
- 転職エージェント
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、障がいのある方が通いながら仕事のスキルを身につけたり、スタッフのサポートを受けながら就職活動を行っていく支援機関です。就職が決まった後も、定着支援といって働き続けるためのサポートを受けることができます。
令和3年時点で全国3,353か所の事業所があり、株式会社や一般社団法人、社会福祉法人、NPO法人が運営を行っています。
対象は一般企業などへの就職を希望する65歳未満の障がいのある方で、利用するには自治体へ申請を行う必要があります。
就労移行支援事業所は基本的には求人紹介をおこなっている施設ではなく、就職活動自体は利用者が別途インターネットやハローワークなどで行ない、スタッフがそのサポートをしていくという位置づけです。
就労移行支援事業所の支援内容
就労移行支援事業所は全国で3,000か所以上あり、事業所ごとに支援内容も異なっています。事業所独自の支援を行っている場合もありますが、ここでは基本的な支援内容を紹介します。
【就労移行支援事業所で受けられる支援内容】
- パソコンなど仕事のスキル取得訓練
- 自己理解やストレスコントロールなどの講座
- 職場実習
- 就職活動や職場定着の支援
基本的には利用開始時に訓練の計画を定め、それに従って必要なスキルの取得のための訓練、自己理解やストレスコントロールなどの各種講座の受講、職場実習などを通して働く準備を整えていきます。
就職活動では書類添削や面接練習、本番の面接にスタッフが同行してのサポートなどを行い、働いた後も定期面談や職場への訪問などの定着支援を実施します。
精神障害の方向けの事業所や、在宅訓練をおこなっている事業所などさまざまな特徴があります。多くの事業所で見学や体験を受け付けているため、気になる場所があったら問い合わせてみるといいでしょう。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障がいのある方へ専門的な職業リハビリテーションの提供を行うとともに、雇用側にも障がいのある方が働き続けるための働きかけを行っている支援機関です。
職業リハビリテーションとは、障がいのある方が適した職業に就いて、働き続けながら能力などを向上させていくことで、社会参加することを目的としたプログラムのことです。
地域障害者職業センターは基本的に各都道府県に一つずつ設置されていて、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営をしています。また、東京や北海道など一部支店が設置されている地域もあります。
地域障害者職業センターの支援内容
地域障害者職業センターでは、雇用側にも働きかけを行っていますが、ここでは障がいのある方への支援を紹介します。
【地域障害者職業センターで受けられる支援内容】
- 職業評価
- 職業準備支援
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業
まずは職業評価という面談や作業の様子を通して、その方に合った支援プランの作成を行います。そのプラン(職業リハビリテーション計画ともいいます)に従って、職業準備訓練という各種スキルを身につけるためのプログラムや講座を実施していきます。
就職活動のサポートとしては書類添削、面接練習、面接同行といったものがあり、就職後もジョブコーチと呼ばれる専門のスタッフを職場に派遣して働き続けるためのサポートを提供します。
地域障害者職業センターは原則的に各都道府県一つずつ設置されているため、場所を確認してから問い合わせてみるといいでしょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障がいのある方の仕事だけでなく、生活での困りごとへもサポートを行っている支援機関です。地域によっては「なかぽつ」や「しゅうぽつ」といった略称で呼ばれることがあります。
令和4年時点で全国338か所設置されており、社会福祉法人、特定非営利活動法人、医療法人などが厚生労働省や都道府県知事の委託を受けて運営をしています。
障害者就業・生活支援センターの支援内容
障害者就業・生活支援センターでは、仕事に関する支援と生活に関する支援があります。企業への働きかけもありますが、ここでは障がいのある方への支援を紹介します。
【障害者就業・生活支援センターで受けられる支援内容】
- 職業準備訓練
- 職場定着支援
- 生活に関する支援
最初に障がいのある方との面談を通して、その方の仕事や生活での困りごとをヒアリングして状況を把握していきます。その後で職業準備訓練として、各種スキルの取得のための訓練の提供や、実際の職場で働く経験をする職場実習のあっせんといったサポートを行います。
センターによってどの程度の訓練を提供するかは異なっており、他の訓練施設の紹介を行うこともあります。
就職活動に関しては、書類添削、面接練習、面接同行などのサポートを行い、働いた後も職場定着支援として面談の実施や職場への働きかけなどを実施します。
生活に関しても住居に関することや、金銭管理、年金の手続きなどさまざまな相談に対応しており、障がいのある方を一体的に支援していきます。
センターの数は300を超えており、それぞれ特徴がありますので、気になるセンターがあったらまずは問い合わせてみるといいでしょう。
ハローワーク
ハローワークは正式名称を公共職業安定所といい、求人の紹介や雇用保険の手続きなど、雇用にかかわる全体的な業務を担当している行政機関です。
ハローワークには障がいのある方向けの相談窓口が設置されており、障がい者雇用求人の紹介やセミナーの案内などの支援を受けることができます。
令和4年時点で全国544か所設置されており、厚生労働省によって運営されています。
ハローワークの支援内容
ここではハローワークの障がいのある方向けの窓口での支援について紹介します。
【ハローワークで受けられる支援内容】
- 専門的なスタッフによる支援
- 就職活動の支援
- 障害者トライアル雇用やハロートレーニングの案内
ハローワークでは、障がいについて専門的なスタッフがいて就職の相談から就職活動、職場定着支援までを一貫してサポートをしています。
就職活動では、求人の紹介から書類添削、面接練習などを行っているほか、さまざまなセミナーの案内や合同面接会の開催といった就職に役立つ情報の提供もしています。
他にも、一定期間働いたのちに正式に雇用契約を結ぶ「障害者トライアル雇用」や、仕事のスキルや知識を身につける公的な訓練である「ハロートレーニング」の手続きも行っています。
これまで紹介した就労サービスとも連携する機会が多いため、一度相談に訪れてみるといいでしょう。
転職エージェント
転職エージェントとは、キャリアアドバイザーなどの専門家がカウンセリングで相談者の状況や希望を整理したうえで、その方にマッチする求人を紹介するサービスのことです。インターネットの求人検索サイトと異なり、専門家による手厚いサポートがあることが特徴といえます。
また、転職エージェントの中には障がいについての知識や経験のあるスタッフにより、障がいのある方へ向けての各種サービスを展開している企業もあります。
転職エージェントのサービス内容
転職エージェントでは、専門のスタッフによる求人紹のほかに、入社手続きの代行などさまざまなサービスを受けることができますので、紹介していきます。
【転職エージェントで受けられるサービス】
- キャリア相談
- 求人の紹介
- 就職活動のサポート
- 面接や入社の手続き代行
- 就職後のフォローアップ
転職エージェントでは、キャリアアドバイザーなどと呼ばれるスタッフによるキャリア相談を通して、相談者の状況や希望をもとにその方にマッチする求人を紹介していきます。
就職活動では、応募書類の添削や、面接の練習やアドバイスなどのサポートや、面接時の企業との日程調整、内定が決まった後の入社手続きの代行なども行っています。
就職した後も困ったことがあったときのフォローアップによって、働き続けるためのサポートがあります。
障がいのある方向けのサービスを展開している転職エージェントでは、上記の他に障がいについて詳しいスタッフにより、障がいやその方の得意不得意なども含めて状況を整理したうえで求人を紹介してもらえるなど、専門的なサポートを受けることができます。
まとめ
強迫性障害は、現実的ではないと認識しながらも不安や行動を抑えるのが難しい疾患です。
仕事においても「確認が多くて納期に遅れる」「他の人が触ったものに触れない」などの日常生活の困りごとが生じることがあります。
ただ、同じ強迫性障害でも、どんなことに不安を感じるかは人によって異なります。障がいの傾向と自分自身の理解を深めることが、働きやすい環境を見つけることにもつながってきます。
また、強迫性障害の方が活用できる就労サービスもたくさんあります。自分だけで進めるのが難しいと感じたときは、今回紹介した就労サービスに相談してみることも選択肢の一つです。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |