2024年05月28日
発達障がいのある方に向いている仕事|活用できる支援機関も紹介
目次
一昔前に比べると、発達障害のある方について、社会の認知が進んできています。しかし発達障害のある人は、まだまだ仕事をしていくうえで悩みが多いと感じる傾向にあるようです。発達障害のある人がスキルや能力を発揮し仕事を続けていくには、「自分に合った仕事」を見つけることがとても重要になってきます。この記事では発達障害の種別ごとに向いている仕事や、就労を応援する支援機関について解説していきます。
発達障害のある方によくある仕事の悩み
発達障がいは、以下の3つに分類されます。
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如・多動症)
- LD(学習障害)
これらの障がいは厳密に分けられるものではなく、人によっては複数の障がいの特性が重なりあっていることもあります。3種類の発達障害はそれぞれに特性があり、仕事に就くにあたって業務内容とのミスマッチなどで困りごとが発生することがあります。
ASD(自閉スペクトラム症)によくある困りごと
人によってさまざまですが、ASD(自閉スペクトラム症)は自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりと相互にやり取りすることが苦手な人が多い傾向にあります。またこだわりが強かったり、特定のことに強い興味を持つ傾向のある方や、視覚過敏・聴覚過敏などの感覚過敏がある方もいます。
そのためASDのある人には、以下のような困りごとがよく挙がります。
- 職場の空気を読んだり、相手の気持ちを想像したりすることが難しく、周囲とのコミュニケーションがうまくいかない
- 自分の決めた手順や興味のあることにこだわりが強く、臨機応変な対応が苦手である
- 曖昧な指示をされると、理解をすることが難しい
- ルール変更があると混乱しやすい
- パソコンのキーボードの音や蛍光灯の光など、環境の刺激を不快に感じて仕事が継続できない
ADHD(注意欠如・多動症)によくある困りごと
ADHD(注意欠如・多動症)の特性は、注意が続かない・ミスが多いといった「不注意」や、年齢と比較して落ち着きがない・待てないなどの「多動性」、思いつくと行動してしまう「衝動性」です。必ずしもすべての特性が認められるわけではなく、一つの特性だけが認められることも多くあります。
ADHDのある人は以下のような困りごとを抱えている方もいらっしゃいます。
【不注意】
- 予定の管理や整理整頓が苦手
- 一度に複数の業務を並行して行うこと(マルチタスク)が苦手
- 業務に集中できず、気が散りやすい
- 注意力が持続しにくい
- 落とし物、忘れ物が多い
【多動性・衝動性】
- 常に動いている・落ち着かない
- 待つことが苦手
- よく考えて行動することが苦手
- 思ったことをそのまま口にする
- 話題が飛びやすい
LD(学習障害)によくある困りごと
LD(学習障害)は、読む、書く、計算・推論するなど特定の学習に関して苦手な方が多い傾向にあります。LDには主に「読字障害」「書字障害」「算数障害」の3つの種類があります。例えば、書字表出障害は文字を書いたり文章を作成したりするのが困難ですし、算数障害は数の概念が身につかず計算や数系列の規則性などの習得が難しいです。
LDの人によくある困りごとには、以下のようなものがあります。
【読字障害】
- 書類を読むのに時間がかかる
- 書類を読み飛ばしてしまう
- 音読の速度が遅い
- 話すとき語尾や文末を間違える
【書字障害】
- 会議などでメモができない
- 書き間違いが多い(鏡文字になることもある)
【算数障害】
- 計算・数を数えるのが苦手
- 買い物で勘定が苦手
- 時計が読めず、時間管理が苦手
LDも人によって現れ方が多様で、なかには聞く、話すが苦手といった方もいます。
発達障害のある方に向いている仕事
発達障害と一言で言っても特性が異なります。まずは自分の特性を理解して、それに合った仕事に就くことが大切です。ここからは発達障害の種別ごとに向いている仕事をご紹介していきます。
ASD(自閉スペクトラム症)に向いている仕事例
ASDのある人は、以下のような特徴のある仕事が向いている傾向があります。
- 規則やマニュアルに沿って働ける仕事
- 自分のこだわりや専門性を活かせる仕事
- 臨機応変な対応を求められない仕事
- 打ち合わせなど人とのコミュニケーションが少なくマイペースにできる仕事
- 視覚的処理能力を活かせる仕事
ASDのある人はコミュニケーションや臨機応変な対応が苦手な人もいらっしゃいますが、特定のことに徹底的にこだわり、ずば抜けた集中力を発揮できることもあります。強みを活かせる仕事に就けば、大きな成果を上げることもできるはずです。
【ASDの特性が強みに働く仕事例】
- 研究者
- ライター
- デザイナー
- カメラマン
- 専門事務
- プログラマー
- 校閲・校正
- 動物の調教師
もちろん例に挙げた仕事だけではなく、向いている特徴に当てはまるのであれば「ASDのある人に向いている仕事」といえるでしょう。
ADHD(注意欠如・多動症)に向いている仕事例
ADHDのある人は以下のような特徴のある仕事がマッチするかもしれません。
【不注意の特性が強い】
- 発想力や独創性を活かせる仕事
- 慎重さを求められない仕事
【多動性・衝動性の特性が強い】
- 行動力を活かせる仕事
- 就労時間や業務内容に自由度のある仕事
不注意の特性がある人は注意力が散漫になったり忘れ物が多かったりする傾向があり、ちょっとしたミスが大きな事故に繋がりかねない仕事はリスクが高くなると言えます。また多動性・衝動性の特性が強いと、毎日同じことが繰り返される単純すぎる作業が苦手なこともあります。
【ADHDの特性が強みに働く仕事例】
- 調理師
- Webデザイナー
- インテリアデザイナー
- ゲームプログラマー
- 消防士
LD(学習障害)に向いている仕事例
LDのある人は苦手な部分を他の人の協力やツール道具で補えば、支障なく仕事ができる場合が多いです。そのため、仕事というよりも職場環境で向き不向きがあります。
以下のような職場であれば、支障なく仕事ができるといえます。
- スマホやタブレット、PC表計算ソフトなど苦手分野を補助できるツールが使える職場
- 苦手分野に理解がある職場
- ノルマに追われない職場
発達障害がある方の雇用形態
発達障害がある方の雇用形態はおもに2種類あります。
- 一般就労
- 障がい者雇用枠での就労
それぞれの雇用形態にどのようなメリットがあるのかご説明していきます。
一般就労
一般就労とは、「企業や公的機関などと労働契約を結んで働く就労形態」のことです。障がいについては自分でオープンにしない限り障がいが公になることはありません
【一般就労のメリット】
- 応募できる仕事が多い/多くのスキルを身につけるチャンスがある
- 平均賃金が高くなる傾向がある
一般就労は、スキルアップや賃金の面でメリットがあります。しかし他の従業員と同じ条件で仕事をこなす必要があります。そのため障がい特性に対する配慮が得られないこともあるでしょう。
障がい者雇用枠での就労
障がい者雇用枠は「障害者手帳」を持っている人が対象になります。障がい者雇用は障がい当事者が合理的配慮を受けることで一人一人がより社会で活躍するための雇用制度です。2021年3月には障害者雇用促進法の改正がなされ、民間企業の社員数に対して雇用すべき障がい者の割合が2.5%に引き上げられるなど、障がいのある人が働きやすくなる環境が整えられつつあります。
【障がい者雇用のメリット】
- 職場で障がいをオープンにできるので、職場でのストレスや不安を軽減できる
- 障がい特性により苦手またはできないことを理解してもらえるので、得意なことを活かして仕事ができる
- 通院で気を使う必要がない
ただし、障がい者雇用は一般就労に比べて求人が少なく、募集される職種も少ない傾向があります。また一般就労に比べて任される仕事が限定されてしまうこともあるでしょう。
発達障害のある方が活用できる支援機関
発達障害のある人が活用できる支援機関として、以下が挙げられます。
- 転職エージェント
- 地域障害者職業センター
- ハローワーク
- 障害者就業・生活支援センター
- 就労移行支援事業所
転職エージェント
転職エージェントとは 、キャリアアドバイザーが面談(カウンセリング)を通して、その人に合った求人情報を提示してくれるサービスです。
障がいのある方の転職に特化したエージェントも多数いて、本人の希望や障がいの特性などに合わせた仕事のアドバイスや、働いた後のサポートを行っている場合もあります。
無料で相談できる場合が多く、転職活動に不安がある方や悩みを解消して働きたいという方におすすめのサービスとなっています。
【転職エージェントで受けられるサービス(詳細はエージェントごとに異なります)】
- 面談(カウンセリング):これまでの経験やどのような仕事をしたいかといった希望、職業適性などを伺い整理していきます。
- 求人紹介:面談(カウンセリング)を通して整理した条件に合った求人の紹介を行います。
- 面接対策:履歴書・職務経歴書等の応募書類の添削や、面接練習等のサポートを行い、内定が出た後は入社前のサポートも行います。
- 入社後のサポート:入社後も長く働き続けられるように、定期的な面談やアドバイスなどのフォローアップをしていきます。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、ハローワークや企業などとの密接な連携のもと「障がいのある人に対する専門的な職業リハビリテーションを提供する施設」として、各都道府県に最低1か所設置されています。利用するのに料金はかかりません。
【地域障害者職業センターで受けられるサービス】
- 職業評価
就職の希望などをヒアリングしたうえで現状の職業能力等を評価し、それらをもとに就職して職場に適応するために必要な支援内容・方法など、個人の状況に応じた職業リハビリテーション計画を立てる
- 職業準備支援
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、障がい者の身近な地域において就業面及び生活面における一体的な支援を行い、障がい者の雇用の促進および安定を図ることを目的として、全国に338か所(令和4年4月1日時点)設置されています。就業やそれに伴う日常生活上の支援を必要とする障がいのある人に対し、センター窓口での相談や職場・家庭訪問等を実施しています。センターの利用料は無料ですが、利用するには利用者登録が必要です。
【障害者就業・生活支援センターで受けられるサービス】
<就業面での支援>
- 就職に向けた準備支援(職業準備訓練、職場実習の斡旋)
- 就職活動の支援
- 職場定着に向けた支援
- 個人の障がい特性を踏まえた雇用管理についての職場に対する助言
<生活面での支援>
- 生活習慣の形成、健康管理、金銭管理等の日常生活の自己管理に関する助言
- 住居、年金、余暇活動など地域生活、生活設計に関する助言
就労移行支援事業所
就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく就労支援サービスの一つで、就労移行支援事業所とは障がいのある人が企業や公的機関で一般就労等ができるよう、知識やスキルを磨く場所です。利用者は24ヵ月(標準機間)の中で就職を目指して訓練や面接練習等を行います。利用料金は、前年の世帯収入に応じて変わってきます。
【就労移行支援事業所で受けられるサービス】
- 希望の就職に向けてスキルや知識を身につけるための職業訓練
- 個別支援計画に基づいた日常生活上の支援
- インターン実習の斡旋
- キャリアカウンセリング
- 応募書類作成や面接対策などの就職活動サポート
- 就職後の相談対応
- 就職後の職場への環境調整依頼
発達障害のある方が自分に合った仕事を見つけるコツ
発達障害のある人が自分に合った仕事を見つけるには、障がいの特性をよく理解する必要があります。しかしいくら本人が特性を把握していても、職場の理解やサポートがなければ仕事を続けていくことはできません。
例えばASDの方が、会議中に議題の文脈と関係ない発言をしたとします。本人に悪気はなかったとしても職場で特性が理解されていなければ、「空気が読めない」「自己中心的」などと思われることもあります。
自分に合った仕事を長く続けていくために、まずは上司に自分の特性を伝えておくようにしましょう。上司があなたを理解してくれれば、職場の同僚も「発達障害の特性である」ことを受け入れやすくなります。
一人で進めていくだけでなく、さまざまなサポートも活用していくと、自分の特性を知ることや職場の理解を得る助けにもなります。障がいのことをよく知る転職エージェントに相談してみるのも一つの手段として検討してみると良いでしょう。
まとめ
発達障がいと一括りに言っても、その特性はさまざまで、障がいのある人それぞれが仕事に対する悩みを抱えています。
障がいのある人に向いている仕事や雇用形態をご紹介しましたが、自分一人では「自分にあった仕事を見つける自信がない」「長く続けるのが難しい」という人も少なくないはずです。そのようなときは転職エージェントやハローワーク、就労移行支援事業所などの支援機関のサポートを受けるようにしましょう。
そして何よりも自分の特性を理解し伝えることで、ともに職場で働く人に受け入れられることが大切です。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |