2024年05月28日
障がい者雇用における定着率はどのくらい?定着率を高めるポイントも紹介
目次
障がい者雇用において、定着率は課題の1つとなります。障がい者雇用枠で入社した後に、人間関係や仕事内容が合わないといった様々な理由により退職してしまう、ということが多いのが現状です。
診断名が同じであっても、障がいの特性は一人ひとり異なっています。そのためマッチする環境も人それぞれとなります。自身の特性を把握し、どういった職場であれば働きやすいかを考えていくことが大事です。
この記事では障がい者雇用枠で働く上でよくある困りごとや、働きやすい環境の例を紹介していきますので、長く安定して働くための参考にしていただければと思います。
障がい者の法定雇用率
従業員が一定数以上の規模である事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にしなければならないと法律で定められています。法定雇用率は、民間企業の場合だと2.5%、従業員を40人以上雇用している事業主であれば、障がい者を1人以上雇用しなければならないと決められています。
障がい者を雇用するとなった場合、作業施設や作業設備の改善・職場環境の整備・特別の雇用管理などのために資金が必要となることがあります。そのため、障がい者を多く雇用している事業主の経済的負担の軽減や、事業主間の負担の公平を図りつつ障がい者雇用の水準を高めることを目指した「障害者雇用納付金制度」が設けられています。
この制度は障がい者を雇い入れる際、作業施設や設備の設置などの多額の負担を余儀なくされる場合に、その費用に対して助成金が支給されるというものです。また、常用労働者が100人以上いるにも関わらず、法定雇用率が未達成の企業から納付金を徴収したり、この納付金を元に法定雇用率を達成している企業に対して障害者雇用調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金、特例給付金及び各種助成金が支給されています。
つまり、従業員が100人以上存在するが法定雇用率を満たしていない企業は、障害者雇用納付金制度によって決められた納付金を支払う必要があります。
障がい者の雇用状況
障がい者の雇用率は、年々上昇傾向にあります。厚生労働省の調べでは、令和3年の時点で民間企業の雇用障がい者数が59万7,786人と18年連続で過去最高を更新。前年度に比べて雇用障がい者数が3.4%上昇、1万9,494人増加しました。また実雇用率も2.20%と前年から0.05ポイントアップ。障がい者雇用に対して、積極的に取り組んでいる民間企業が少しずつ増えていることがわかります。
さらに公的機関でも、国・都道府県・市町村・教育委員会それぞれで前年比を上回る結果に。実雇用率は前年と同様だったものの、民間企業・公的機関ともに障がい者雇用に対して前向きな姿勢であることがわかりました。
障がい者の雇用定着率
では、障がい者の就職後の定着状況はどうでしょうか? 一般企業へ就職した障がい者の就労継続支援A型を含む定着率は、障害者職業総合センターの調査によると、就職後3カ月時点で80.5%、1年時点では61.5%となっています。就労継続支援A型を除く場合では、就職後3カ月時点で76.5%、1年時点で58.4%という結果でした。どちらも、日を追うにつれて障がい者の離職率が高くなっていることがわかります。
また、障がい別でも差があり、就職後3カ月時点の定着率は身体障がい77.8%、知的障がい85.3%、精神障がい69.9%、発達障がい84.7%という結果になっています。
就職後1年時点の定着率では、身体障害60.8%、知的障害68.0%、精神障害49.3%、発達障害71.5%とやはり定着率が下がる傾向にあるようです。また障がい別に見ると、知的障がいや発達障がいと比べて、精神障がいについてはまだまだ定着が困難な場合が多い状況となっています。
障がい者雇用枠で就職しても離職してしまう理由
障がい者雇用枠で就職した方の離職理由はどういったものがあるでしょうか。理由を知ることで対策を取るための参考ともなりますので、ここではよくある離職理由を3つ紹介します。
- 職場の雰囲気や人間関係が合わない
- 賃金や労働条件に不満がある
- 仕事内容が合わない
また、次の章では長く働いていくためのポイントも紹介しますので、合わせてご覧ください。
職場の雰囲気や人間関係が合わない
離職理由でもっとも多く挙がるのが、職場の雰囲気・人間関係です。障がい者に限らず一般でも上位に上がってくる理由の1つですが、障がいのある方のにとっても大きな理由となっていることが分かります。
障害者職業総合センターの「障害者の就業状況等に関する調査研究」によると、「経営理念・社風が合わない」といった一般雇用枠で働く場合にもよくある理由もあれば、「職場に障害(病気)のことを理解してもえらえない」ということを感じたことを離職理由として挙げられていました。
また、「職場の評価が低い」「期待されていない」と感じる方もおり、企業は無理してほしくないために補助的な業務を任せていたとしても、本人にとってつらい状況になっていることも考えられます。
企業としてもどういった業務を任せていいのか分からない、ということも原因としてあるため、自身から障がい特性として「できることできないこと」を伝えるようすることも一つの手です。
どういった業務を任せていいのかが分かれば企業もそれに合った業務を探しやすくなり、つらい状況が改善するかもしれません。
賃金や労働条件に不満がある
障がい者の離職理由で次に多いのが、賃金・労働条件です。
厚生労働省の「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、身体障害者の平均月給は約21万円、知的障害者11万7,000円、精神障害者12万5,000円、発達障害者は12万7,000円だということがわかりました。
また、精神障害者は週の労働時間が30時間以上の方が、47.2%、20時間以上~30時間未満の方が39.7%となっており、労働間が短い方が多いことも月給に影響を及ぼしていることがわかります。
また、厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」によると、全労働者の平均月給は約30万円だということが判明しています。「労働統計要覧 D労働時間」によると、平均の週労働時間は約39時間となっているため、労働時間の違いによる平均月給の違いもうかがえます。
このように、企業側とのミスマッチによって適正な賃金・労働条件の下で働けないことが離職の理由となる場合があります。
ただ、時間が短いということは無理なく働けるということでもあるため、短時間勤務のうちに体調を安定させたりスキルを高めておき、その後に時間を延ばす話し合いを行っていくといった方法もあります。
仕事内容が合わない
仕事内容が合わないことも、離職率を高めてしまっている理由の1つです。企業にもよりますが、障がい者雇用枠では仕事の難易度が低く設定されていることがあります。厚生労働省が発表した「平成30年度障害者の職業紹介状況等」によれば、障がい者の方が従事している仕事内容の中で特に多いのは以下の4つです。
- 運搬・清掃・包装等の職業(34.1%)
- 事務的職業(22.1%)
- 生産工程の職業(12.2%)
- サービスの職業(12.2%)
職場にもよりますが、障がい者雇用では補助的な仕事を任される傾向があります。一方で仕事内容がやりがいを感じられなかったり、昇給・昇格などのキャリアアップが難しいという現状に不満を抱いてしまう方もいるでしょう。
こちらも無理なく働けるというメリットもありますので、まずはできる業務からはじめて実績を積んでいき他の業務を任せてもらえるように話し合いをしていき、少しずつ広げていくという方法もあります。
上記のような理由で障がい者雇用で入社しても、離職してしまうことがあります。
しかし、ポイントを押さえて対策を取っていくことで、働きやすくしていくことも可能となっています。この次の章で、長く働くためのポイントを紹介していきます。
障がい者が長く仕事を続けられるためのポイント
これまでは障がい者雇用枠で働く上で困難になり得ることをお伝えしてきましたが、ここからは障がい者雇用枠で長く働いていくためのポイントを紹介します。
- 困ったときは遠慮せずに伝える
- 自分のリズムを作る
- 支援機関を活用する
という3点について解説していきます。
困ったときは遠慮せずに伝える
先ほど挙げた、労働時間や仕事内容、職場の雰囲気が合わないなと感じた時は、なるべく遠慮せずに伝えるようにしていくといいでしょう。
事前に合理的配慮をすり合わせていても、働いていく中で障がい特性のために、仕事を進める時に困難が生じることがあります。そういった困りごとを発信することに遠慮があるかもしれませんが、実は企業もどのような仕事を任せたらいいのか迷っていたということもあるかもしれません。伝えていくことでそういうミスマッチを減らしていくことにもつながります。
といっても、誰に言っていいのかわからない状態だと伝えることも難しいと思います。そのため、入社時や異動時等、事前に困ったことがあった時に誰に伝えればいいのかを確認しておくと、発信もスムーズに行うことができるでしょう。
また、後述する支援機関を活用することも、職場に自分の困ったことを伝えて働きやすくする手助けとなってきます。
自分のリズムを作る
職場内での発信といった働きかけも大事ですが、仕事以外も含めた自分のリズムを作っていくことも長く働く上では大切です。
仕事に集中しすぎるあまりにストレスをためてしまったり、十分な休息を取れていないと、普段はできる業務にもパフォーマンスを発揮できない、ということもあり得ます。
そういったときは業務前後の時間や、休日の過ごし方など、自分のリズムで過ごせる時間でリフレッシュすることで、業務の効率が上がるなど、働き続けていくことにもつながってきます。
こちらも自分だけで考えるのではなく、主治医や支援機関と一緒に自己分析を行うなどして、自分のリズムを作っていくと良いでしょう。
支援機関を活用する
障がいのある方の支援機関を活用していくことも、長く働くための方法の一つです。ここでは就職した後に活用できる支援機関を紹介します。
- ジョブコーチ支援事業
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 転職エージェント
ジョブコーチ支援事業は、障がい者の職場適応のために職場適応援助者(ジョブコーチ)を派遣し、業務遂行をサポートしたり、職場へ障がい者の特性に合わせた配慮の助言などを行います。
地域障害者職業センターは、障がい者の仕事に関するさまざまな支援を行っている機関で、各都道府県に設置されています。仕事に関する各種相談をすることができ、ジョブコーチ支援事業もこちらで行っています。
障害者就業・生活支援センターは、障がい者の生活面と就業面の一体的なサポートをしていく機関です。全国に設置されていて、就職に向けた支援のほかに、職場定着支援も行っています。
また、これから就職活動・転職活動を考えている方には転職エージェントを利用するという方法もあります。
転職エージェントは、キャリアアドバイザーが面談などを通して、その方に合った仕事の紹介や面接練習などを行うサービスで、就職後のフォローアップまで行うエージェントもあります。
無料で相談できる場合が多く、障がいのある方の就職に特化したサービスもありますので、障がい者雇用枠で働く方がマッチしているか等悩んでいる方も一度相談してみるといいでしょう。
まとめ
年々増加傾向にある障がい者の雇用率。その一方で、定着率は中々伸びないのが現状です。離職の理由として、賃金や労働条件、職場環境や人間関係等に困りごとが生じていることが多く見られます。
障がい者雇用枠で長く働いていくためには、職場で困ったことがあった時は伝えることや、自分のリズムを作っていくことが大事になってきます。
それとともに、支援機関等のサポートしてくれる場所を活用していくことで、より困りごとへの対応をスムーズに行っていくことも可能です。
自分だけで対策に取り組むのではなく、そういった支援機関も活用しながら、長く働くための方法を探していくことが大事になってきます。
【本記事監修者】 佐々木規夫様 産業医科大学医学部医学科卒業。 |